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 パラノイドパーク

2008年4月

PARANOID PARK

 

パラノイドパーク

 
  • 監督・脚本・編集:ガズ・ヴァン・サント
  • 原作:ブレイク・ネルソン著『パラノイドパーク』
  • 出演:ゲイブ・ネヴァンス、テイラー・モンセン、
       ジェイク・ミラー、ローレン・マッキニー
  • サウンド・デザイナー:レスリー・シャッツ
  • 配給:東京テアトル

2007年 アメリカ・フランス映画 85分

  • 2007年カンヌ国際映画祭60周年記念特別賞受賞
 

物語

オレゴン州ポートランド。まるで天使のような端正な顔立ちの16歳の少年アレックス(ゲイブ・ネヴァンス)は、スケートボードをはじめたばかり。ある日、友達のジャレッド(ジェイク・ミラー)から誘われてスケーターたちの憧れの公園「パラノイドパーク」にやってきた。周囲には、スケートボードを愛するアレックスと同じよう少年が大勢集まり、コンクリートの上に腰を下ろして、仲間の滑りを見ている。スケートボードの滑る音だけが聞こえる。アレックスも腰を上げて、おもむろに滑り出してみる。壁を滑り宙に浮き、再びコンクリートの壁に戻る。こうして、コースを滑り終えると、またしゃがみこんで他の少年の滑りを眺める。アレックスは、パラノイドパークが気に入った。また来週の土曜日に来ようと友達と約束をする。

アレックスの両親は離婚調停中で、弟はそれがストレスとなって吐いていた。学校に行くと、アレックスのガールフレンドと自認しているジェニファー(テイラー・モンセン)が話しかけてくる。

約束の土曜日がやって来た。しかし友達はガールフレンドとの旅行にでるため都合が悪くなり、アレックスは一人でパラノイドパークに行くことになる。

パラノイドパークは治安の悪い場所だった。夜になり、アレックスは年上の不良たちに声をかけられ、貨物列車の飛び乗りに誘われる。線路にやってきたアレックスたちは、走ってきた貨物列車のデッキに飛び乗った。ここちよい風がアレックスのほほに触れ、髪をなびかせる。すると、彼らに気づいた警備員が走ってきて二人を下ろそうと警棒でたたきはじめた。誘った不良はいち早く走り去った。アレックスは、スケートボードで警備員を振り払っていたが、警備員がバランスをくずして倒れたところへ、別の列車が来て、警備員は列車に轢かれてしまう。貨物列車を降りたアレックスが確認に行くと、身体を真二つに切断された警備員は、最後の力を振り絞って上半身だけでアレックスににじり寄ってきた。恐ろしくなったアレックスは走り出す。途中、橋の上からスケートボードを川に投げ捨てる。家に戻ったアレックスは、血のついた服をゴミ袋に入れ、シャワーを浴びる。父親に相談しようと電話するが、通じない。

パラノイドパーク

翌日、昨晩のことを確認するため、カフェで新聞を見ていると友達のメイシーたちがやってきた。鋭いメイシー(ローレン・マッキニー)はアレックスの行動に不信をいだく。アレックスは、新しいスケートボードを買った。

ある日の昼休み、スケートボードをする少年たちだけが呼び出される。刑事はパラノイドパークに行ったかとみんなに聞く。刑事はスケートボードが事件と関係しているようだと言う。

 

映画は、事件から1ヶ月後、アレックス一人が、数学の授業中に刑事から呼び出されるところからはじまります。恐ろしい事件を引き起こしたにもかかわらず、少年はいつもと変わらない生活を送り、ガールフレンドと戯れます。事の重大さがわからない、罪の意識を認識できない少年の心を、ガズ・ヴァン・サント監督は、スケートボードがコンクリートの壁をこする音と音楽で、みごとに描いていきます。

「心に何かを抱えているとき、だれかに手紙を書くといい」とすすめるメイシーの言葉に促されて手紙を書きはじめるアレックスは、草原のベンチに座ってあの日を思い出しはじめます。緑の中にいるアレックスを見ていて、14歳の少年の心を描いた岩井俊二監督の映画「リリイ・シュシュのすべて」を思い出しました。

スケートボードに心の拠り所を求める少年の心に、いったい何がおきているのでしょう。故意にではないにしても、自分が犯してしまった殺人という過ちに対して、彼はどう対処していくのでしょうか。罪を明かし苦しさから解放されたいと思う一方、その機会が壊されていく中で、少年はこのまま黙っていることも選べるのです。黙っていれば、何もなかったこととして、これから過ごしていくことができるかもしれない。逃げるのか、それとも自分の罪に立ち向かっていくのか……。

責任を果たしきれない年齢の少年に対して、周囲の大人が、彼をしっかりと見つめ、受け取っていく必要があることを感じました。しかし、ここに出てくる大人である両親は自分のことでいっぱいで、子どものことには関心がないようです。

映画の中でほとんど言葉を発しないアレックスに、いろいろな人がかかわります。パラノイドパークに誘った友達、ガールフレンドのジェニファー、ストレスを受けている弟、自分たちのことでいっぱいの両親、不良の少年、刑事、警備員。その中で、心配してくれるのはメイシーだけです。距離をおきながらもまるで母親のようにかかわってくれるメイシー。彼女とのかかわが罪を抱えているアレックスの心を、解放へと導いてくれることに期待します。

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