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 丘を越えて

2008年5月

丘を越えて

  • 監督:高橋伴明
  • 脚本:今野勉
  • 原作:猪瀬直樹『こころの王国』(文春文庫)
  • 出演:西田敏行、西島秀俊、池脇千鶴、余貴美子、猪野学
  • 配給:ゼアリズエンタープライス/ティ・ジョイ

2008年 日本映画 114分

 

時代を超えて、今もその名が輝く作家のひとりに、菊池寛がいます。出版社で働きたいという望みを貫き、当時の最先端のファッションに身を包んだ菊池寛の私設秘書・葉子と、彼女を取り巻く人々を描いた作品です。文藝春秋社の社長として、編集者として、そして作家として忙しい毎日を送っている菊池寛、菊池寛がその才能を認めていた文藝春秋社員の馬海松、葉子の母で元芸者のはつ、上野の孤児だったときに菊池寛に拾われ運転手になった“地下鉄しんちゃん”などが登場します。人々の生活が一気に代わっていた昭和初期。モダンな時代に、最先端のモダンを生きた人々を描いた物語です。菊池寛生誕120年、没後60年を記念して製作されました。

 

物語

下町で育った葉子(池脇千鶴)は、母・はつ(余貴美子)と二人暮らし。女学校を卒業して働き口を探していた。知人の紹介で文藝春秋の面接を受けるが、不況で社員を解雇している状況で新規採用はないと断られる。なんとしても出版社に務めたいと願う葉子は、どうやって自分をアピールするか考えた。葉子は断髪にし、洋服にハイヒール、頭には帽子をかぶって再び出版社に出かける。

社長であり売れっ子の作家でもある菊池寛の目にとまるが、経理の目が厳しく雇用は無理だった。そこで、菊池は自分の給料からまかなう私設秘書として葉子を雇うことにする。

丘を越えて

葉子は心を込めて働き、次第に彼女の持っている賢さが菊池にも伝わっていく。彼女は、家に帰ると小説を書いていた。菊池の周囲には、今まで見たこともない世界が広がっていた。一見派手に見えるが人情深い人だった。やはり菊池に見いだされて編集者として働いている馬海松(西島俊之)に興味を持つ。彼は、朝鮮の貴族で日本に留学していた。菊池と知り合って編集者となった。新しい考えの持ち主で、いずれは国に帰って新しい朝鮮を作りたいと心を燃やしていた。

菊池が葉子に好意を持っていることを知った運転手の“地下鉄しんちゃん”(猪野学)は、葉子と馬海松の関係を探りはじめるが、彼自身も葉子に好意を持っていた。馬海松との関係を知りながら、菊池は葉子の存在を大切なものと感じていた。菊池は葉子に訴えた。「私は50歳で死にます。そのときあなたはまだ26歳です。それまでボクと一緒にいてください」と。

丘を越えて

二人の男性の間で揺れながら、葉子は大人の女性として成長していき、女流作家への道をめざしていく。そんなとき満州事変が起きる。馬海松はある決心を葉子に伝えるのだった。

 

菊池寛は、幾人もの女性の面倒を見ていました。自分の思いを、葉子に恥ずかしそうに伝える姿は、写真でおなじみの姿からは想像できません。菊池寛の周囲にいる数人の女性たちを愛人ではないかと疑う葉子に「みんなかわいそうな女性ばかりなんだ」と答えます。かわいそうな人を見たら、面倒を見てあげたい菊池です。彼のやさしい心と素直さがにじみ出ています。

昭和初期は、江戸の風がまだ残っていた時代です。女性の生き方や暮らしから見ても興味深い作品です。

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