お薦めシネマ
告発のとき
2008年6月
In The Valley of Elah
- 監督・脚本・製作:ポール・ハギオス
- 音楽:マーク・アイシャム
- 出演:トミー・リー・ジョーンズ、シャーリーズ・セロン、
スーザン・サランドン - 配給:ムービーアイ
2007年 アメリカ映画 121分
- 2008年度アカデミー賞主演男優賞ノミネート
- 2007年ヴェネチア国際映画祭正式出品
サテライト賞 ドラマ部門主演男優賞受賞 - ロンドン批評家協会賞 男優賞受賞
物語
2004年11月。ハンク(トミー・リー・ジョーンズ)は、電話の音で眠りから起こされる。それは、イラクに派遣されている次男マイクの声だった。「家に帰りたい……」という声が、とぎれとぎれに聞こえた。いったい何なのだろうと思っているハンクと妻のジョアンのもとに、マイクがいないという知らせが入った。
ハンクも元軍人で、ハンクの兄も軍人という典型的な軍人一家、マイクが無許可離隊をするとは、考えることができないハンクは、長男を戦死で失い、また次男も……と、力をなくすジョアンを残し、マイクを探すために、ひとり、マイクの帰還先のフォート・ラッドへと出発する。
いなくなる直前に、町に出て一緒に酒を飲んだというハンクと同じ隊の仲間は、店を出た後別れ、その後のマイクの行方はしらないと言う。刑事エミリー(シャーリーズ・セロン)の協力を得て、マイクの行動を調べていくが、そこへ、マイクの焼死体が発見されたというニュースが届く。ハンクとエミリーはその夜のことを調べ始めるが、殺害現場が軍の土地だったため、これ以上関わることができなくなる。
不信を感じる2人。エミリーは、拒否する軍に粘り強く関わり、一緒に酒を飲んでいた仲間に話を聞く機会を設ける。彼らは、イラクでの想像もできない恐怖を語っていった。
なんとも切ない映画です。想像できないイラクでの現場の兵士たちの状態。それでも、人間を人間でない状況に置いてしまう戦争を、米国は今も続けています。何のための戦いなのでしょうか。携帯電話のカメラで撮影した映像で、息子は、父親に何を知らせたかったのでしょうか。愛し大切に育てた息子を戦争で失った夫婦の哀しみ。イラクの米兵に、何が起きているのか。不当に始まった戦争を、いったいだれが責任を取ってくれるのか。疑問は限りがありません。
母の哀しみ。父の反骨の思い。いつ狙われるかわからない恐怖の中で生きているイラクでの緊張感を、帰還した米国でも、取り外すことができません米兵たち。イラクを体験した米国の実態があらわになります。
この作品は、2003年7月に実際に起きた米兵による殺人事件をルポした記事「死と不名誉」をもとにしています。父親の告発を描くこの作品自身が、米国への告発となっています。この世界の現実として、祈りをささげたい作品です。