お薦めシネマ
敵こそ、我が友
2008年8月
~戦犯クラウス・バルビーの3つの人生~
- 監督:ケヴィン・マクドナルド
- プロデューサー:リタ・ダゲール
- オリジナル音楽:アレックス・ヘフェス
- 文献調査:カミーユ・メナジェール
- ナレーション:アンドレ・デュソリエ
- 配給:バップ、ロングライド
2007年 フランス映画 1時間30分
- トロント国際映画祭正式出品
- サン・セバスチャン国際映画祭正式出品
「敵こそ、我が友」は、ナチスのゲシュタポとして活動し、戦後はアメリカの陸軍情報部のメンバーとして米国のために働き、さらに南米に渡ってボリビアの軍事政権誕生に影響を与え、やがて、フランスでの裁判で終身刑の判決を受けたクラウス・バルビーの生涯を追ったドキュメンタリー映画です。
多くの罪を犯したナチス親衛隊員が、名前を変えてアメリカ、ボリビアへと渡りながら、「なぜ、長い間生きながらえることができたのか」という大きな疑問を追ってたくさんの証言をたどることによって、人々の触れることのできない現代社会の裏側、国と国の駆け引きが見えてきました。
ケヴィン・マクドナルド監督は、こう語っています。
「我々の政府は、自分たちの大儀のために、現在でも一般的には得体の知れない組織や個人と関わっており、成果をあげています。……我々は、第二次世界大戦後には、ファシズムは消滅したと教わったけれど、事実は違う。戦勝国の指導者たちは、我々の生きている今日の世界を築き上げるために、ファシズムを利用し続けました。このことを私は示したいのです。……本作で扱っているテーマは、我々が今、生きている現代に関する重大な事柄だということを、声を大にして伝えたいと思います。」
1967年、スコットランドのグラスゴーに生まれたケヴィン監督は、1972年のミュンヘン・オリンピックで起きたイスラエル選手団誘拐・殺人事件を取り上げた「ブラック・セプテンバー 五輪テロの真実」(1999)で、その名を世界に知らしめ、続く長編ドキュメンタリードラマ「運命を分けたザイル」(2003)、2006年度のアカデミー賞で主演男優賞を受賞した作品「ラストキング・オブ・スコットランド」を監督し、彼の作品は数多くの賞を受けています。
* * * * * * * * *クラウス・バルビーは、1913年ドイツに生まれ、ヒトラー青年団に入隊、22歳のときに、ナチス親衛隊のメンバーとなりました。1941年のいわゆる“ユダヤ人狩り”に関わった疑いをもたれています。その後、当時のナチス軍支配下にあったフランスのリヨンで、政治犯の取り締まる親衛隊保安部の責任者となりました。
1944年、ドイツに逃亡し妻子と合流。1947年、アメリカ陸軍情報部(CIC)に入隊、工作員となり、かわりにアメリカの庇護を受けることになります。
1948年、ルネ・アルディの裁判で、フランスから身柄の受け渡しを求められましたが、CICは、バルビーを家族とともに南米に亡命させます。
1952年、フランスはバルビーを戦犯とします。ビジネスで成功したバルビーはボリビアの有力者と親しくなります。さらに武器の輸入を手がけたことから、政府とも関係を持つようになります。
1982年、バルビーの足跡を求めていたフランスは、バルビーに逮捕状を出し、バルビーはボリビアから追放され、フランス領ギアナでフランスに逮捕されます。4年に渡る予審の後、1987年、17の人道に対する罪で終審禁固刑を宣告されます。
1991年、刑務所内でガンによりなくなり、ボリビアに埋葬されました。
バルビーの娘ウーテ・メスナーをはじめ、歴史学者たち、弁護士たち、ボリビアの内務大臣、バルビーの親友、ジャーナリスト、被害者たちなどの証言から、バルビーの姿が描きだされていきます。果たしてバルビーは本当に残忍な人だったのか、何を目指してアメリカ陸軍のために働き、またボリビアの建国のために力を尽くしたのか……。そして、思いがけない事実もでてきます。
バルビーを見ていると、同じように日本にもいる戦後を生きのびてきた戦争責任者たちを思い出します。彼らは、自分たちのしてきたことを、どう思っているのでしょうか? 人間の歴史とは何なのか、人間の裏と表が見えてくるドキュメンタリーです。