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 女工哀歌(エレジー)

2008年9月

China Blue

女工哀歌

  • 監督:ミカ・X・ペレド
  • 音楽:ミリアム・カトラー
  • 配給:エスパース・サロウ

2005年 アメリカ映画 88分

  • アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭 アムネスティ・ヒューマン・ライツ・アワード受賞
  • アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭Joris lvens Awardノミネート
  • PBSインディペンデント・レンズ観客賞受賞
  • シカゴ国際映画祭HUGO TV Awards Silver Plaque
  • トロント国際映画祭正式出品作品
 

衣服、カバン、デジタルカメラ、電化製品などなど、あらゆるものに「中国製」とか「made in China」という表示がついているこのごろです。「女工哀歌」は、中国の大規模の縫製工場で働く、地方から出てきた少女・ジャスミンの15週間を追ったドキュメンタリー映画です。タイトルを見て思い浮かぶのは、明治時代の「女工哀史」という言葉です。女工たちを描いた『ああ、野麦峠』では、製糸工場の人間性のない過酷な環境の中で体を壊して結核になり実家へ送り返される途中の野麦峠で命のともしびが消える人、つらい労働に湖に身を投げる人と、人権を無視された少女たちの悲劇がつづられていました。中国の女工さんたちは、現代どんな環境で働いているのでしょうか?

四川省の農村に住む16歳のジャスミン・リーは、生計を助けるために出稼ぎ者として都会に出てきました。ジャスミンは、日本や欧米の国々へ輸出しているジーンズを作っている工場で働くことになりました。そこでは、裁断する人、ミシンをかける人、アイロンをかける人、できあがったジーンズを箱に詰める人と、ジーンズの山に埋もれながら一所懸命に働いていました。ジーンズ1本を作るのに、15~16人がたずさわることになりますが、1本あたり6.9元、約107円の賃金です。工場では、一日に3,000本のジーンズが作られ、少女たちは月200元~500元、3,120円~7,800円の給料をもらいます。

女工哀歌
(c)2005 Teddy Bear Films

女工たちはみな寮生活で、同じ年頃の少女たちが一室に12人住んでいます。ジャスミンは、糸切りに配置されました。これは仕上げ前の段階で、縫い目から出ている余分な縫い糸を切り、できあがりを整えていくものです。注文が入ると完成させるまで、全員朝まで働かされます。

家族から離れての慣れない生活と、深夜までの労働で睡眠不足が続き、ジャスミンはジーンズの山の中で、ついうとうとと居眠りをしてしまいました。しかし、居眠りには罰金が科せられているので見つかったら大変です。

つらい毎日ですが、家族への仕送りができるとがんばって働くジャスミン。しかし、給料日は、遅れ気味です。やっと給料日がやってきました。しかしジャスミンには給料は支払わせませんでした。後で分かったのですが、初任給の対象者が逃げないために、会社が給料を預かることにしていたのです。

このように厳しい労働の日々の中でも、少女たちはなんとか楽しみを見つけています。先輩で20歳のオーキッドはスタイルがよく、休日にディスコで踊るのを楽しみにしています。寮の部屋にあるベッドの間でダンスを踊り、他の少女たちはうらやましそうに見ています。彼女はお金持ちと結婚してよい生活をしたいと思いながら、ボーイフレンドとデートに向かいます。

「お金を稼ぐためなら、なんでもする。」ジャスミンたちに過酷な労働を強いている経営者のラム氏は、こう言ってはばかりません。「欧米諸国ではデニムなしの生活は考えられない」と、ビジネスを明るく見ています。厳しい顧客の要求に、コストのしわ寄せは、従業員におよんでいきます。ラム氏は、「従業員を甘やかすと彼らはなまけるから、厳しくしないといけない」と思っています。中国では労働運動が禁止されているため、従業員たちは、不満があっても会社に訴えるすべを持っていません。

女工哀歌

 

ある日、ジャスミンは腹痛に襲われました。薬を買うお金もないジャスミン。希望を持って都会に出てきた少女たちが、希望を見いだす日は来るのでしょうか。

 

この映画を製作するにあたっては、大変な苦労がありました。撮影許可が必要で、政府の役人の監視つきです。撮影する人がなんども拘束され、撮影テープの没収にもあいました。

監督はこう言っています。
「私は現代のもっとも重要な問題は、『グローバリゼーション』だと思っています。それでこの映画を撮りました。とくに自分を行動に駆り立てたのは、多国籍企業の利益のみを求める姿勢によって、われわれの生活がますます管理されたものになっていることに憤りを感じていたからです。私にとって、ただひとつの適切と思われた返答は、彼らが見せたくないものを見せる映画を作ることでした」。

糸を切りながらジャスミンは思います。「私たちが毎日作るジーンズ、だれがはいているんだろう?」 この映画を見た人びとは、「中国製」の文字の背景に、ジャスミンのような多くの人びとがいることを忘れないでしょう。

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