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お薦めシネマ
マルタのやさしい刺繍
2008年10月
Die Herbstzeitlosen
- 監督:ベティナ・オベルリ
- 脚本:ザビーネ・ポッホハンマー
- 音楽:ルック・ツィメルマン&
シュトゥーベムースィッヒ・レヒシュタイナー - 出演:シュテファニー・グラーザー、
ハイジ=マリア・グレスナー、アンネマリー・デュリンガー、
モニカ・グブサー、ハンスペーター・ミュラー=ドロサート - 配給:アルシネテラン
2006年 スイス映画 89分
- 2007年スイス映画賞(Swiss Film Prize)主演女優賞ノミネート
- 2007年度アカデミー賞外国語映画賞 スイス代表作品
36歳の女性監督が、80歳の女性を主人公にした作品です。女性でなければ撮ることができないやさしく包み込むような視点が、見る人の心をやさしさで満たしてくれます。友人と一緒に、「人間最後までがんばれる!」と元気をもらう作品です。
物語
夫を亡くした80歳のマルタ(シュテファニー・グラーザー)は、生きる気力をなくし家に閉じこもって毎日を過ごしていました。毎日曜日に友人たちとかかさず行っていた教会にも行かず、夫とやっていた雑貨店も閉店したままです。心配した3人の友人は、合唱コンクールに出る村人たちの合唱団の旗の縫い直しの仕事をマルタに持っていきます。
気乗りしないまま引き受けたマルタは、布を買うために行った生地屋で美しいレースを目にします。うっとりとしてレースを手に取るマルタ。彼女は若いころ、ランジェリーを縫っていたのでした。
家に帰ったマルタは、奥の方にしまいこんでいた箱を取り出します。そこには、若いころ自分でデザインして縫ったランジェリーが納められていました。
「ランジェリーは機械縫いではだめ。縫い方が雑なのよ。昔はみな手で縫っていたもの」「パリにお店を開くのが夢だった」若いころを思い出したマルタの顔は、子どものように輝いていました。
マルタは、村の女性たちに美しいランジェリーを身につけてもらおうと、1階の雑貨店をランジェリーショップにすることを思いつきます。しかし、3人の友人の中でマルタに理解を示すのは未婚の母のリージ(ハイジ=マリア・グレスナー)だけでした。老人ホームにいるフリーダ(アンネマリー・デュリンガー)も、体が不自由になった夫と一緒に施設に行くように息子から促されているハンニ(モニカ・グブザー)も、マルタを理解できませんでした。
しかし、牧師をしている息子のヴァルター(ハンスペーター・ミュラー=ドロサート)は、雑貨店のスペースを聖書研究会に使い出します。それでも、マルタは一針一針心をこめて刺繍してランジェリーを仕上げていきます。
オープンの日。しかし、お店に来る人はいませんでした。「高齢者は子どものいいなりになっていればいいんだ!」「わきまえを知りなさい!」「いい歳をして、何のつもりだ!」牧師の息子や村の男性だけでなく、マルタと同世代の女性たちもが、マルタの夢を封じ込めようとします。保守的な村では、受け入れられないことでした。マルタの息子として村人たちの笑い者になったヴァルターは、マルタの作ったランジェリーをすべて捨ててしまいます。
数々の抵抗に遭いながらも夢を捨てずにがんばっているマルタを見て、フリーダもハンニもマルタを手伝うことにします。ハンニは夫と自立するため運転免許を取り、フリーダは老人ホームでコンピュータを習いはじめ、マルタのランジェリーをインターネットで販売することを提案します。するとマルタのランジュエリーショップは……。
村人からは白い目で見られ、教会では息子から説教の中で批難され……と、さまざまな困難がやってきますが、やると決めたら突き進んでいくマルタの姿は、さまざまなしがらみの中で生きている現代人に、勇気を与えてくれます。周囲の目を気にしすぎると、生きることができなくなっていきます。自分の心の中で起きていることに信頼し、生きることに自信を持つ。80年間生きてきたからこそ確信できる、マルタの境地かもしれません。
美しい刺繍が盛んな、スイスならではのお話です。