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 その木戸を通って

2008年11月

FUSA

その木戸を通って

  • 監督:市川崑
  • 原作:山本周五郎『その木戸を通って』
               (新潮文庫『おさん』に収録)
  • 脚本:中村努、市川崑
  • 音楽:谷川賢作
  • 出演:浅野ゆう子、中井貴一、フランキー堺、井川比佐志、
        岸田今日子
  • 配給:ゴー・シネマ

1993年 日本映画 92分

  • 1993年ヴェネチア国際映画祭 特別招待作品
  • 1994年ロッテルダム国際映画祭 批評家選出部門出品作品
  • 2008年第21回東京国際映画祭 特別上映作品
 

日本初の長編ハイビジョンドラマとして1993年8月に完成し、BS放送で一度放映されただけだった、市川崑監督の作品が、東京国際映画祭で上映されました。15年前の若い浅野ゆう子と中井貴一のういういしさと、今は亡きフランキー堺、岸田今日子のベテランとしての味のある演技、市川崑作品特有の画面構成や色彩の美しさなどがそろい、しっとりとした日本の美しさを表現するすばらしい作品です。

映画は、風にゆれる画面いっぱいの竹林からはじまります。

 

物語

武士平松正四郎は、愛娘ゆかを嫁に出す日を迎えていた。正四郎は、ゆかの母・ふさを思い出していた。ふさは、17年前、突然平松家にやってきたのだった。

御勘定仕切りの監査のために城に詰めていた正四郎(中井貴一)は、老中田原(フランキー堺)から呼び出された。正四郎の家は廃家となっていたが、田原の尽力で平松家再興となり、また、田原の仲立ちで城代家老の娘との結婚の話がまとまっていた。田原は正四郎を、なにかと心にかけてくれていた。田原は正四郎に、正四郎の家にいる娘とはどういう関係かと問いただした。心当たりのない正四郎は、いそいで家に戻った。家には、見覚えのない美しい娘がいた。

その木戸を通って
(C) 2008フジテレビ

その娘(浅野ゆう子)は、自分が何者でどこから来たのか分からず、平松正四郎という名の他は、何も覚えていないという。

娘をふびんに思った家来の吉塚(井川比佐志)と妻むら(岸田今日子)は、娘の面倒を見たいと申し出るが、見知らぬ娘が正四郎の家にいることを知った許嫁と城代家老のことを思うと、家に置くわけにはいかないと娘を追い出す。旅支度をした娘は、命じられるままに平松家を出て行く。

降りしきる雨の中を出て行った娘の後をつけた正四郎は心を変え、家につれもどし住まわせる。吉塚夫婦によって「ふさ」と名付けられた娘は、陰ひなたなく働き、読み書きもでき、次第に家の者から愛され慕われ、家外の人からも信頼されるようになる。正四郎もふさの素直な心にひかれ、ついには、縁談を断ってふさを妻として迎えることになる。

やがて娘ゆかが生まれ、正四郎と平松家にとって安定したしあわせな日々が続く。しかし、ふさは、ときどきものに憑かれたように一点を凝視する態度をみせるようになる。「これが笹の道で、その向こうに木戸があって……」と言いながら。

時はめぐり、正四郎が御勘定仕切りの監査のために城へ詰めるときがやってきた。三日間城に詰めている正四郎のもとへ、吉塚がやってくる。昨日から、ふさの姿が見えないのだという。ふさは、竹林の庭を出て行ったらしい。

 

おとぎばなしのような世界です。突然やってきた申し分のない娘ふさに惑わされてしまったようにも感じます。ふさはいったいどこへ行ってしまったのか……。ふさは、正四郎や吉塚夫婦にとってどのような意味を持つ女性だったのか……。

「鶴の恩返し」を思わせる内容で、はかないしあわせのひとときをもたらした「ふさ」を演じる浅野ゆう子が、ういういしさと美しさ、心の清らかさを表現していて、おもわず彼女の世界にひきこまれてしまいます。市川崑ならではの美の世界をご堪能ください。

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