お薦めシネマ
BOY A
2008年11月
- 監督:ジョン・クローリー
- 原作:ジョナサン・トリゲル
- 脚本:マーク・オロウ
- 出演:アンドリュー・ガーフィールド、ピーター・ミュラン、
ケイティ・リオンズ、ショーン・エヴァンス - 配給:シネカノン
2007年 イギリス映画 107分
- 2008BAFTA最優秀男優賞、最優秀監督賞、最優秀編集賞、最優秀撮影賞
- 2008ベルリン国際映画祭パノラマ部門エキュメニック審査員賞
物語
おどおどとして自信のなさそうな24歳の青年BOY A(アンドリュー・ガーフィールド)は、多感な少年期を社会から隔絶されて生きてきました。しかし今、彼は社会に出ようとして、ソーシャルワーカーのテリー(ピーター・ミュラン)の話を聞いています。時間が経つにつれ、彼の顔から不安は消え、これからのことを考えると、心の奥からわいてくる自由への喜びに輝きだします。しかし、テリーは言われます。「決して自分のことを話してはいけない。いいかい、過去の君は死んだんだ」。何回も言われたテリーのことばを心に刻み、青年は自分で決めたジャックという名で、新しい生活を歩みはじめます。
運送会社で働くことになったジャックは、先輩のクリス(ショーン・エヴァンス)の車に乗ることになりました。クリスは仕事を教えてくれるだけでなく、遊びにもさそってくれ、若者としての楽しさを味わっていきます。また何かと心にかけてくれる職場のミシェル(ケイティ・リオンズ)とつきあうことによって、人から受け入れられることの安心感を味わいます。ジャックは、人間としての感覚を取り戻していきます。
テリーは、ジャックを親身になって守り続けます。しかし、託された子どもへの熱心さのゆえに、家庭ではうまくいかず離婚していました。ある日、疎遠になっていた息子が彼のもとを訪れます。自分よりも担当の青年にいっしょうけんめいになっているテリーに、息子は反感を抱いていきます。
ミシェルと心をゆるしあうようになっていたジャックは、自分の過去について彼女に黙っていることにいたたまれなくなり、テリーに相談します。しかし「絶対、言ってはいけない」と強く言われるのでした。
ある日、息子と酒を飲んで酔いつぶれたテリーは、酔いつぶれ寝言で言ってしまいます。「おまえは俺の誇りだ、ジャック」。それは父親に心を開こうとしていた息子を、徹底的に打ちのめすことばでした。
観客は、少しずつ社会と他者に適応していこうと歩みはじめた少年Aが、「過去は捨てろ」と言われながらも、少しずつ自分の少年時代を思い出していくのと同じ歩調で、彼を知っていきます。彼も本当は新しい自分を生きたかったことでしょう。しかし、自分のしたことをはっきりと思い出すのです。
日本映画の「手紙」や、今フジテレビで放映中の「イノセント・ラブ」を思い出させます。厳しい風が吹き付ける現実の中で、彼らがどう生きていくかが問題なのではなく、社会の構成員であるわたしたち大人が、彼らとどのように関わっていくかが問われているように思いました。自分の生き方を問いかけてくる作品です。
ジャックを演ずるアンドリュー・ガーフィールドが、微妙なジャックの心情を表現していきます。アンドリュー・ガーフィールドのすばらしい演技力も、じっくりとご覧ください。