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 青い鳥

2008年12月

青い鳥

  • 監督:中西健二
  • 脚本:飯田健三郎、長谷川康夫
  • 原作:重松 清「青い鳥」(新潮社刊『青い鳥』所収)
  • 音楽:加藤千晶
  • 出演:阿部 寛、本郷奏多、伊藤 歩、太賀
  • 配給:日活、アニープラネット

2008年 日本映画 1時間45分

  • 第21回東京国際映画祭「日本映画・ある視点」出品決定!
  • 文部科学省 特別選定(少年向き/青年向き/成人向き)
  •         選定(家庭向き)
 

中年の男たちの悲哀や家庭の問題など、日常生活をテーマにした小説で定評のある重松清氏の作品「青い鳥」の映画化です。いじめによる自殺未遂事件が起きた中学校が舞台です。事件を早く忘れてしまいたい学校や保護者たちに対して、子どもたちの心をそんなに簡単に片付けてはいけないと静かに戦う教師と、友人の自殺未遂にショックを受け、そのことが気がかりになっている男子生徒を中心に物語は進みます。吃音というハンディキャップを持っている臨時教師は、「臨時」という軽い存在と限られた時間の中で、何をしようとしているのでしょうか。

物語

新学期初日のある中学校に、ひとりの臨時教員がやってきました。2年1組の教壇に立った臨時教員は村内先生(阿部寛)はあいさつをしようとしますが、なかなかことばが出ません。彼には強い吃音がありました。生徒たちはその姿を笑いものにします。しかし、「忘れるなんて、ひきょうだ」という小さなひとことに、生徒たちはハッとします。窓際の空席に歩み寄った村内先生は、「野口君、おはよう」と声をかけます。

青い鳥
(c)2008「青い鳥」製作委員会

同じ新学期が始まる朝、園部真一(本郷奏多)は通学途中の道の角で自転車を止め、道の向こうに見えるコンビニを見つめていました。コンビニはシャッターを下ろしていました。

家がコンビニをしていた野口君は「コンビニ君」と呼ばれ、数人の生徒(太賀、他)から店の商品を持ってくるように強いられていました。何回も重なる請求に苦しくなった野口君は自殺を図りました。彼の遺書には、自分を殺した犯人として3名の名前が書かれていました。そこにだれの名が書かれていたのか……。いのちをとりとめた野口君は転校し一家は店をたたんで引っ越していきました。マスコミに騒がれた学校は、生徒たちに反省文を書かせ、生活指導を強化するということでこの事件を終えようとしていました。反省分は、一定の基準に達するまで、何回も書き直させられました。担任は重圧に耐えかね休職しました。学校は、野口君の事件がなかったかのようにして、新しい学期を迎えたのです。

村内先生は、その後毎朝、野口君へのあいさつを繰り返しました。生徒たちは反発し、やがて、職員たちや他のクラスの保護者たちにも知られることとなりました。早く本来の生活に戻りたいと思っている学校側は、村内先生に冷たく当たっていきます。そんな中、この事件に心を痛めていた島崎先生(伊藤歩)だけが、内村先生と心を通わせていきます。

ある朝、野口君の机がなくなっていました。野口君の机は校舎の裏で、激しい雨に濡れていました。

野口君のことが気にかかっていた園部は、「野口はいつもおどけていて、みんなから頼まれることがうれしそうだった。しかし本当は、自分に助けを求めていたのではないかと思う」と、苦しい思いを村内先生に打ち明けます。

青い鳥
(c)2008「青い鳥」製作委員会

村内先生が学校を去る日、みんなに作文を書くように言います。それは、以前学校に提出した反省文を書き直したいと思う人は、書き直して提出しなさいというものでした。ひとり、またひとりと教壇から作文用紙を取っていきます。園部はその光景を見ながら、席を立てずにいました。

 

いじめとそれに苦しんで自らのいのちを絶とうとした仲間がいたことを忘れようとしている生徒や学校に、村内先生は「忘れてはいけない」と一石を投じます。

「何かを伝えようとするとき、野口君のように笑わないと伝えられない人もいる」「自分たちが野口君に何をしてきたのか……。自分のしたことに責任をとらないといけない」「本気で話すときは、本気で聞け」「強くなんてならなくていい、みんな弱いのだから……」村内先生のつっかえながら語りかけることばは、園部、クラス全員、そして島崎先生の心の奥に響いていきます。そこには、村内先生の痛い体験があるようです。

辛いこと、都合の悪いことから逃げるのではなく、ゆっくり、少しずつでもいいから、心の動きに敏感になり真剣に正面から向き合うことは、自分のしたことへの「責任」ということばとともに、突きささってきます。

すらすらと表現できない村内先生のことばは真剣で、学校という教育の場だけのことではなく、人間の生き方として投げかけられてきます。

背中を丸めたさえない教師を演じるカッコイイ阿部寛、繊細な園部役の本郷奏多やクラスを二分する派閥のリーダー井上役の太賀をはじめとする子どもたちの体当たりの演技も必見です。

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