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 懺悔(ざんげ)

2008年12月

Pokayanie

懺悔

  • 監督:テンギズ・アブラゼ
  • 脚本:ナナ・ジャネリゼ 、テンギズ・アブラゼ
  • 音楽監修:ナナ・ジャネリゼ
  • 出演:アフタンディル・マハラゼ、ゼイナブ・ボツヴァゼ、
        ケテヴァン・アブラゼ、エディシェル・ギオルゴビアニ、
        メラブ・ニニゼ
  • 配給:ザジ・フィルムズ

1984年 ソビエト(グルジア)映画 2時間33分

  • 1987年カンヌ国際映画祭 審査員特別大賞・国際批評家連盟賞・キリスト教審査員賞
  • 1987年シカゴ映画祭審査員特別賞
  • 1988年NIKA賞(ソ連・アカデミー賞)作品賞・監督賞・主演男優賞・撮影賞・ 脚本賞・美術賞
 

映画「懺悔」は、1984年、旧ソビエト政権下のグルジアで製作されました。1986年にグルジアの首都で公開されると、見た者は、1937年のスターリン書記長による統治を思い起こしました。スターリン政権を正面から批判した作品として、全世界の注目を集め、後のソビエト連邦解体へとつながるペレストロイカを象徴する作品となりました。日本では幻の映画とされていましたが、このたび、岩波ホールリニューアルの第一作として公開されることとなりました。

物語

教会をかたどったケーキ作りに余念がない女性がいる。ケテヴァンは、台所のテーブルに次々とケーキを並べていく。その横でイスに座って男性が読んでいる新聞には、「すばらしい人が亡くなった」という見出しに笑顔の男性の写真が載っていた。その男の名はヴァルラム・アレヴィゼ。彼は市長として、ケテヴァンが小さいときから人々の尊敬を受けていた。

多くの人が参列し、ヴァルラムの葬儀が終わった。ヴァルラムの息子アベルは、父をたたえる言葉をたくさん聞いた。翌朝、妻の叫び声が屋敷に響いた。妻の視線の先には、墓から掘り出された父ヴァルラムの遺体があった。再び墓に葬るが、また翌日、遺体が墓から掘り起こされ、木に立てかけられていた。

アベルは気味の悪いこの出来事を警察に知らせ、息子トルニケとともに墓を見張ることにした。しばらくすると人がやってきた。トルニケの銃声で捕らえた犯人はケテヴァンだった。

ケテヴァンの裁判が行われた。ケテヴァンは、着飾り堂々とした態度で出廷した。彼女は墓を掘ったことは罪ではないと言い、さらに「彼を埋葬はさせない。埋葬させたら、彼の罪をゆるすことになる」と主張した。ケテヴァンは、自分が小さかったころ、ヴァルラムが市長になったときの話をはじめた。

ケテヴァンは画家の父と美しい歌声をもつ母と幸せに暮らしていた。しかし、父が文化遺産である教会の修復を市長に申請したことから、不穏な空気がただよいはじめる。やがて、市長と父との間に決定的な意見の対立が起こり、父は突然連行されていった。

幼いケテヴァンと母の辛い日々がはじまった。知り合いも次々に捕らえられていった。一方、権力に酔いしれている市長ヴァルラムは、「他人の行動や言葉を信用してはいけない。警戒して敵を見つけ出せ」と演壇の上から力を込めて宣言した。市民は、彼の言葉に洗脳されていた。

教会が燃えて崩れた。そのとき、父は亡くなった。やがて母も逮捕されていった。

こう話すケテヴァンに、法廷はどよめき非難をあびせた。その中でひとり、家族の侵した悪を知ったトルニケだけが罪の意識を感じていた。

トルニケは父アベルを責めるが、アベルは「ヴァルラムは悪い人ではない、そういう時代だったのだ」と答えた。しかし、アベルも心の奥から聞こえるヴァルラムの声に苦しんでいた。

ある日、トルニケはゆるしを求めてケテヴァンを訪ねた。しかしケテヴァンは「ゆるしを請う相手は神よ」と答えるのだった。ヴァルラムを肯定する一族の罪深さに苦しんだトルニケは、自ら命を絶った。息子を失ってはじめて目を覚ましたアベルは、墓へと向かった。

 

最後の場面は、再びケーキ作りをしているケテヴァンの台所に戻ります。旅をしてきたような老女が、窓からケテヴァンに道を尋ねます。

  「教会に行くにはこの道でいいのでしょうか」
  「ヴァルラム通りは、教会に通じていません」
  「教会に通じていない道が、何の役に立つのですか」

この2人の会話に、監督のメッセージが込められていると思います。

頂点に立ち権力を欲しいままにしていくと、人間としてもっている良心が遠くなってしまいます。彼が上り詰めた座によって恩恵に浴している家族も、正しい判断力を失っていきます。圧政によって不当に苦しめられた人々への償いは、いったいだれがしていくのでしょう。後の時代によって罪が明らかにされ、虐げられた人々が正しく評価されることが、裁きと償いになるのでしょうか? せめてその悪政が歴史に残り、後の時代の人々への布石となればと思います。

映画をとおして、自由と人権について広く深く訴えるテンギズ・アブラゼ監督の強いメッセージは、時代を超えて広く人々に訴えることでしょう。ぜひご覧ください。

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