お薦めシネマ
空とコムローイ
2009年1月
The Sky and Khomroy
~タイ、コンティップ村の子どもたち~
- 監督・撮影・編集:三浦淳子
- 音楽:横内丙午
- 支援:芸術文化振興基金
- 配給:パンドラ
2008年 日本映画 90分
ローソクの炎の熱で飛ばす白い紙でできた熱気球“コムローイ”。ローソクに火がつけらた“コムローイ”が、今、子どもたちの手を離れて空に上がっていきます。人々は、“コムローイ”といっしょに、不幸や悪魔も飛んでいくようにと祈ります。
ここはタイ最北端のメーサイ。2000年3月、当時会社員だった三浦監督は、この村にある子どもたちの施設を訪れ、以来、訪問しては彼らの様子をフィルムに収めています。ドキュメンタリー映画「空とコムローイ」は、三浦監督の7年の出会いを記録したものです。
“コンティップ村”と呼ばれるこの施設には、山岳民族の「アカ族」の18歳までの子どもたちと女性たち、およそ150人が家族のように共に暮らしています。ここで彼女たちは、アカ族独特の刺繍を学んだり、タイ語や算数を教わったりしています。
アカ族は、森の精霊を信じ、黒い木綿に美しい刺繍をほどこした服など独特の文化を持っており、自給自足の生活をしていました。しかし焼き畑が禁止されてから、伝統的な生活ができず厳しい生活環境に追い込まれ、麻薬売買や、少女たちが買われて都会に連れて行かれ、エイズに感染する人も多くなってきました。
コンティップ村をはじめたイタリア人の宣教師ペンサ神父は、30年間にわたってアカ族の人々の相談にのり、父親のような包容力と、母親のような細やかな愛情で子どもたちの成長を見守ってきました。
この村のお母さん役は、ノイさん。アカ族の言葉もわかるノイさんは、創設当初からペンサ神父の片腕として活躍し、一人ひとりに親身にかかわっています。
コンティップ村を訪れた三浦監督は、エイズに感染している母親ユイに出会いました。ユイもコンティップ村で育ちました。コンティップ村を出た後に結婚したのですが、夫をエイズで亡くし、再婚して女の子を産みました。自分もエイズにかかっているとわかったユイは、娘ファを連れてコンテップ村に帰ってきました。ファが2歳のとき、ユイはエイズで亡くなりました。三浦監督は「幼い娘ファのいのちを見つめていたい」と思ってカメラを回し続けてきました。村の人気者であるファは、ペンサ神父やノイさんはじめ、みんなに愛されて育ちました。
あれから7年。母親の死がわからず、泣いてペンサ神父を困らせていたファも9歳になり、街の小学校に寮生活をしながら通っています。
やさしく子どもたちを抱くペンサ神父の温かさがステキです。また、母親を亡くしたファの遠くを見つめる悲しそうな眼差しが、まるで苦労した大人のようで心が痛みます。アカ族の人々は、グローバル化された世界の負を担わされているような厳しい状況ですが、スクリーンに映し出された映像をとおして、三浦監督の人々に向かう温かな思いが伝わり、コンティップ村のおだやかな人々の暮らしによって見ている者もホッとなります。