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 シリアの花嫁

2009年3月

The Syrian Bride

シリアの花嫁

  • 監督:エラン・リクリス
  • 脚本:スハ・アラフ、エラン・リクリス
  • 音楽:シリル・モラン
  • 出演:ヒアム・アッバス、マクラム・J・フーリ、
       クララ・フーリ、ジュリー=アンヌ・ロス、
       ディラール・スリマン
  • 配給:シグロ、ビターズ・エンド

2004年 イスラエル=フランス=ドイツ映画 1時間37分

  • 文部科学省特別選定(成人向)
  • 文部科学省選定(青年向,家庭向)

  • 2004年モントリオール世界映画祭 グランプリ・観客賞・国際批評家連盟賞、エキュメニカル賞
  • 2004年ロカルノ国際映画祭 観客賞
  • 2004年フランダース国際映画祭 最優秀脚本賞・観客賞
  • 第21回東京国際女性映画祭参加作品
 

中東、政治的理由によって境界線に柵ができて分断され、人々が自由に行き来できなくなった中東のある地域。監視の兵士が立つ柵ではさまれたノーマンズランドのこちらとあちらには係官がいて、両方の印がないとここを通ることはできず、いったん渡れば、二度と戻ることはできない。ノーマンズランドを行き来して書類のやりとりをするのは、中立的立場の国際赤十字のスタッフだ。緊迫感のある国境にもかかわらず、そこでのやりとりはお役所仕事で気の遠くなるような時間が無駄に流れていった。ある昼下がり、純白のウエディングドレスを身につけた美しい花嫁が、境界線にやってきた。

 

物語

真っ白なウエディングドレスを手に、村の坂道をくだっていく女性たちがいる。ここは、イスラエル占領下のゴラン高原にあるマジュダルシャムス村。今日結婚式を迎えるモナ(クララ・フーリ)は、姉のアマル(ヒアム・アッバス)とアマルの娘に伴われて村の美容室に向かっていた。花婿はシリアの俳優タレル(ディラール・スリマン)だが、モナとタレルの間には、越えなくてはいけない厳しい境界線があった。境界線を越えてタレルのいるシリアに行けば、二度とイスラエルに戻ることはできない。モナにとって、今日はうれしい結婚式の日であり、また家族との生涯の分かれとなる悲しい日だった。

モナの父のハメッド(マクラム・J・フーリ)は親シリア派で、政治運動をしているため、イスラエル警察から睨まれていた。ハメッドは、モナの結婚の宴に出ないで、この日行われるシリアの新大統領を支持するデモに参加しようとしていた。

シリアの花嫁

村人たちの祝いのことばを受けながら、モナの顔は悲しく沈んでいた。結婚がうまくいかなくても、家族のもとへ帰ることはできないのだ。そこへ、モナの長兄ハテムが、妻と息子をつれてロシアから帰ってきた。8年ぶりに帰郷した息子を見て母親は喜ぶが、そこへハメッドがデモから帰ってきて気まずい空気が流れる。ハメッドは、ロシア人と結婚した息子を受け入れていないのだ。

花婿なしの宴会が終わると、モナと家族は境界線に向けて歩き出した。境界線の向こうには、花嫁を迎えるために花婿の家族や友人が集まっているはずだ。しかし、そこに花婿の姿はなかった。そこへ、デモに参加したハメッドを捕らえるために、イスラエル警察がやってきた。

シリアの花嫁

タイヤがパンクして遅れていたバスで花婿たちも到着し、検閲所ではモナの通行証にイスラエルの出国印が押された。国際赤十字のジャンヌ(ジュリー=アンヌ・ロス)がモナの通行証を持ってシリア側へ行った。そこで入国手続きが終われば、モナはここを通過できる。しかし、通行証を見たシリア側の担当者が「これは認められない」と言い出した。突き返された通行証を持って、ノーマンズランドをイスラエル側に戻ってくるジャンヌ。いやなことになったと思った。彼女はこの仕事が最後の任務で、モナを無事シリアに送れば、帰国することになっていたのだ。

シリアの花嫁

果たしてモナは、愛する人のもとへ行くことができるのか……。

 

ゴラン高原に住むイスラムの少数派のひとつ、ドゥルーズ派の一家の一日を追った作品です。ここは、もともとはシリア領でしたが、1967年の第3次中東戦争で、イスラエルの占領下となりました。この地域に住む多くの人々は無国籍者となり、境界線が引かれました。境界線の柵の向こうにいる家族との行き来はできなくなりました。

シリアの花嫁

民族間の争いから生まれた不条理な軍事境界線。中東に住む人々の状況を、日常に起きるさまざまな出来事をとおして知らせる社会的な作品ですが、それだけでなく、家族や結婚について、シンボリックに示している意味深い作品でもあります。女性にとって結婚は、戻ることができない覚悟を持ってひとつの敷居を超えることであり、今までとは全く違う未知の世界へ飛び込むことです。そこには、愛する家族との別れが必要で、意を決して相手に向かって踏み出す一歩が必要なのです。


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