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 アライブ – 生還者 –

2009年4月

STRANDED

原題:STRANDED:I HAVE COME FROM A PLANE THAT CRASHED ON THE MOUNTAINS

 

アライブ

  • 監督:ゴンサロ・アリホン
  • 撮影:セザール・シャローン
  • インタビュー:16人の生還者
      ロベルト・カネッサ、カリートス・パエス、
      ダニエル・フェルナンデス、モンチョ・サベージャ、
      ボビー・フランソワ、アルバーロ・マンヒーノ、
      アントニオ・ビシンティン、ペドロ・アルゴルタ、
      ハビエル・メトール、ホセール・インシアルテ、
      パンチョ・デルガード、ナンド・バラード、
      エドゥアルド・ストラウアチ、ロイ・アルノー、
      アドルフォ(フィト)・ストラウチ、
      グスタボ・セルビーノ
  • 配給:グアパ・グアポ

2007年 フランス映画 1時間53分

  • 東京国際映画祭2008特別招待作品
  • アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭2007グランプリ受賞
 

1972年10月12日、乗客と乗務員45人を乗せた軍用機が、チリのサンチアゴに向かって、ウルグアイのモンテビデオを離陸しました。この飛行機はウルグアイ空軍の軍用機で、親善試合の向かうラグビーチームと家族や友人たちが乗っていました。しかし悪天候のため、アルゼンチンのメンドーサに緊急着陸し、翌日、サンチアゴに向けて再び飛び出発しました。アンデス山脈を越えるルートを飛行し、山の乱気流に巻き込まれ雪の山中に墜落しました。

この映画は、最初32名いた生存者が2か月後には16人になり、捜索活動が打ち切られた後、自分たちの力で遠征隊を組み、70キロを歩いて下山した2人によって、全員が救助されるまでの72日間を、生存者の証言と再現ドラマでつづったドキュメンタリー映画です。

標高4,000メートルの雪山の、寒さと飢えと絶望中で、72日間もどのようにして生き延びたのでしょうか? 墜落後5日目、食料がなくなった彼らの中から、死者の肉を食べるという考えが出ます。

アライブ

 

「ついに食料が底をついた日、われわれは思った。主が最後の晩餐のときにその血と肉を使徒たちに与えたように、われわれにも同じようにしなければならないということを指し示しているのだと。」「仲間から死ではなく、いのちを受け継いだ。」「自分が死んでも、遺体を役立ててほしい。」彼らは、死者の肉を食べることを「聖体拝領」ととらえ、いのちをつないでいったのです。

救助から5日後、奇跡の生還者たちを、たくさんのマスコミが囲み記者会見が行われました。彼らは、亡くなった方々への尊厳のために、彼らの肉を食したことを、まず遺族に伝えたいと計画していたのですが、マスコミの力がその時間を与えませんでした。彼らは苦しみを抱えたまま真実を公表することにしました。「人肉を食べる」というタブーが破られ、世界に衝撃が走りました。

死と隣り合わせの苦しい状況の中で、ともすれば自分が生き残るために仲違いがおき、他者を犠牲にすることも起きるでしょう。たしかに、生存者たちの間で意見の一致がみられず気まずい空気が流れたこともありました。また、生きることに希望を失いかけた人もいました。しかし彼らは、「絶対に帰るぞ」と心に言い聞かせ、みなのいのちをつないでいくことに、それぞれが貢献しました。

また、「息子が死ぬはずはない」と確信を持っていた家族の捜索と祈りも、遭難者たちを生へと導いたのでしょう。

墜落事故から35年たち、奇跡の生還者たちと子どもたち、亡くなった人びとの子どもたちが、慰霊のために現場を訪れました。そこには墓標として十字架が立てられていました。墜落したときの様子やその後の苦しい日々の話を聞きながら、ともに涙し祈りながら、遺族たちは、亡くなった家族が生還者たちの中に生きていることを感じていました。

日本では、熊井啓監督の「ひかりごけ」が、生き延びるために人肉を口にするというテーマを扱っています。日本では刑に処せられました。キリスト教が土台にある南米との違いを感じます。慰霊のために現場を訪れた生還者と遺族たちが、手をとり、肩を抱き合って祈る姿から、人間は「生かされている」存在であり、それは驚異であり感謝することだと感じました。

「これを取って食べなさい。これは私の体である」と言われたイエスの言葉の意味を考えさせられる映画でした。


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