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 ウイグルから来た少年

2009年9月

YASHI

ウイグルから来た少年

  • 監督・脚本・編集:佐野伸寿
  • 出演:ラスール・ウルミリャロフ、カエサル・ドイセハノフ、
  •    アナスタシア・ビルツォーバ、ダルジャン・オミルバエフ
  • 配給:アップリンク

2008年 日本・ロシア・カザフスタ映画 65分

  • 第32回モントリオール世界映画祭公式招待作品
 

今年の7月、中国の新疆ウイグル自治区ウルムチで、工場で働く漢人たちとウイグル人たちの間で、大きなぶつかり合いが発生しました。この事件に対する中国政府の対応に不満を持ったウイグル人たちが、公正な解決を求めて抗議デモを行いました。デモは平和的なものだったにもかかわらず、中国政府が武力で押さえたので、反発したデモ隊の一部の人が暴徒化し、多くのウイグル人が亡くなりました。死者の数は、中国政府の発表した数よりも10倍から20倍とされ、双方の見解は異なっています。

これは、中国政府の対応も含めて、少し前に起きたチベット民族への圧政を思い出させる事件です。少数民族への中国政府の態度が、世界に知られるところとなりました。

映画「ウイグルから来た少年」は、カザフスタンやイラクでの滞在経験が豊富な、佐野伸寿監督が、ウイグルの正しい姿を知ってほしい……という思いから、中央アジアに生きる人々の生活を描いた作品です。

物語

カザフスタンにある町のはずれに、廃屋となっている建物がある。その壊れかけた一室に、2人の少年と1人の少女が暮らしている。アユブ(ラスール・ウルミリャロフ)は、両親が不当な理由で逮捕され、中国から逃げてきたウイグル人で、道に落ちるものを拾って生活している。

近所の少年たちにいじめられるアブをいつも助けてくれるのは、年上のカザフ人のカエサル(カエサル・ドイセハノフ)だ。彼は経済的に豊かな家庭の出身のようだが、退廃的になっており、家族から離れアユブたちとこの廃屋で生活している。

水道管から絶えず水がしたたり落ち、人が住むような環境でないにもかかわらず、家賃の取り立てに管理人のブラート(ダルジャン・オミルバエフ)がやってきた。お金のないマーシャの分は、カザルスが立て替えた。カザルスは、酒場で知り合ったお金持ちの男性の相手をしてお金を得ているようだ。

ロシア人の少女マーシャ(アナスタシア・ビルツォーバ)は、体を売って生活している。お客を取るように強要されるが、身体の調子が悪いようで重い咳をしている。真っ赤な口紅を塗るマーシャが読む本はトルストイ全集。疲れて眠る手には、小さな人形が握られている。

ある日、ブラートがやってきていい話があるとアユブに持ちかけた。捕らえられている母親を助けるという思いを胸に、アユブはブラートと出かけていった。

数日後、戦勝記念日を迎えた町は、大勢の人々で賑わっていた。人々のうれしそうな顔。パレードが始まり、それを見つめる人々の中にアユブの姿があった。人々の陽気さとはうらはらに、あたりを気にしながら歩くアユブの体には自爆装置が巻かれていた。ジャケットの前を開けたアユブは、スイッチを入れると再び人々のほうへと歩き始めた。

 

アユブ、カエサル、マーシャ、同じ場所に宿を取りながらも、それぞれ希望のない未来を抱えています。佐野監督は、3人の子どもたちを追いながら、どうすることもできない社会のからくりの中で、大人たちに利用され、生命を削っていく子どもたちの姿を描いていきます。

争いの絶えないウイグル人たちの世界で、それでも彼らはこう宣言しています。「非暴力という哲学が、民族を存続させている」と。


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