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 南京 ─ 引き裂かれた記憶

2009年11月

 

南京 ─ 引き裂かれた記憶

  • 監督:武田倫和
  • 構成・編集:武田倫和
  • 取材・インタビュー:松岡環
  • 出演:大門義雄、出口権次郎、松村芳治、
        張秀英、楊紹栄、王振挙

2009年 日本映画 85分

 

2008年公開されるも、上映取り止めの映画館が続出したドキュメンタリー映画「靖国」の中で、「南京大虐殺」は宗教がでっちあげたとものとして否定する署名運動を行っている光景がありました。このように「南京大虐殺」の論争は未だに続き、「南京虐殺」をテーマにした内容の映画上映は難しいものがあります。そんな厳しい状況の中、当事者たちの孫に当たる若い世代の武田倫和氏(1979年生まれ)が編集・監督し、「南京大虐殺」の加害者と被害者の証言を集めたドキュメンタリー映画が東京で上映されることになりました。

武田倫和監督は、「この映画を製作するきっかけとなったのは、松岡環さんがとの出会いと、彼女が取材した『南京大虐殺』の被害者と加害者の証言を集めた膨大な量のビデオ映像との出会いだった」と語っています。それらの映像を見て、武田監督は、彼が幼いころになくなったおじいさまのことを思い出されました。普段は大変やさしいおじいさまだったそうですが、お酒を飲むと人格が変わったようになり暴れ出したそうです。「自分が殺した中国人が襲ってくる」と言っていたそうです。おじいさまのこの行動と、松岡さんの撮影した映像の中で語っている被害者たちの言葉が結びつき、おじいさまが生涯苦しんだその事実に関心を持つようになりました。

松岡さんは、20数年前から元兵士や被害にあった体験者からの聞き取り活動だけでなく、年に数回中国に渡って、生存者の方々の心のケアをしているそうです。しかし、1937年当時10歳くらいだった人でも、今は80代になっており、証言者が少なくなってきています。「証言者たちがいなくなってしまう。早く映像を残しておかなければ……」松岡さんと武田監督は焦るような気持ちで撮影を進めてきました。しかし、歴史認識を変えようとする人々の攻撃を何度も受けました。事件の解説や研究家の主張ではなく、“直接体験した人に語ってもらう”、つまり“彼らの記憶”をたどることが映画の中心です。

日本軍と戦った生き証人の国民党軍の元兵士、日本軍に包囲された南京市内から城外の下関まで連れて行かれ、敵に殺されるなら自殺しようと弟と一緒に揚子江に身を投げた人、30人ほどの女性たちと広場に連れて行かれ強姦された若いお母さんだった女性、斬りつけられて大量の血を流している父の前で、母親と一緒に陵辱された当時7歳だった女性。思い出すのも辛い話を語ってくれました。

それに反して加害者たちの証言は、「日本がえらい目に合わしたんや。文句言うのは当たり前だ。わしらが揚子江で、何万という支那人を撃ち殺したんやから」と謝罪の思いはありません。当時の自分の行動をどう思うかという問いにも、「そのとき自分は鬼畜になっていた。人間のすることではないと思っている」と言いますが、自分のしたことは恐ろしいことで、それに対して苦しんでいる……という思いは表現されていません。

見る者は、彼らの証言をしっかり受け止める必要があります。


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