お薦めシネマ
カラヴァッジョ
2010年2月
Caravaggio
- 監督:アンジェロ・ロンゴーニ
- 音楽:ルイス・バカロフ
- 出演:アレッシオ・ボーニ、クレール・ケーム、ジョルディ・モリャ、
エレナ・ソフィア・リッチ、パオロ・ブリグリア - 配給:東京テアトル
2007年 イタリア・フランス・スペイン・ドイツ合作映画 133分
「この人がいなければ、レンブラントもベラスケスも誕生しなかった」といわれる絵画の巨匠カラヴァッジョは、今年没後400年を迎えます。彼を記念する映画ができました。カラヴァッジョの作品からもわかるように、すばらしい才能を持ちながらも、激しい気性で、ついには殺人犯として追われる身となったカラヴァッジョですが、旧約聖書や新約聖書を題材にした聖堂や祭壇の絵を描くとき、どのような神観、イエス像を持っていたのでしょう。同じキリスト者として、興味のあるところです。
物語
コロンナ伯爵夫人(エレナ・ソフィア・リッチ)の援助を得て、ミラノからローマに出てきたカラヴァッジョ(アレッシオ・ボーニ)は、画家のマリオ(パオロ・ブリグリア)と知り合いになり、彼の紹介でダルビーノの工房に入ります。夜、街に飲みに出たカラヴァッジョは、酒場で美しい女性フィリデ(クレール・ケーム)に心を奪われますが、彼女は高級娼婦で、元締めのトマッソーニが厳しく目をひからせていました。フィリデがカラヴァッジョの相手をするような娼婦ではないと言われると、何かの力がカラヴァッジョをつき動かしました。トマッソーニも、カラヴァッジョの視線を意識します。こうして、トマッソーニは、彼の宿敵のような存在となります。
足に大けがをしたとき、また食べ物がないほど貧しくなったとき、マリオはカラヴァッジョをやさしく癒やします。カラヴァッジョは、マリオをモデルに、「果物かごの少年」「とかげに噛まれた少年」を描きます。
他に類をみないカラヴァッジョの絵は、次第に認められるようになり、デル・モンテ枢機卿(ジョルディ・モリャ)がパトロンとなり、館の一部を提供してくれました。落ち着いて絵を描くことができるようになったカラヴァッジョは、忘れられないフィリデをモデルにするために、トマッソーニとテニスで戦い、勝って彼女を部屋に招きます。
殺人事件の犯人とされた母と娘の斬首の刑を目撃したカラヴァッジョは、そのときの場面を記憶し、フィリデをモデルにして旧約聖書の人物、ユデットを描きます。しかし、フィリデはカラヴァッジョの元を去り、娼婦の仕事に戻ります。フィリデと分かれたつらさから、自堕落な生活をしていたカラヴァッジョに、聖堂の絵画制作の依頼が来ます。
ある日、マタイの召命の場面を描いていたカラヴァッジョは、部屋の高い窓からキャンパスに差し込んだ光を見て驚きます。絵の中に光を描くことによって、登場している人々がより生き生きとしてきたのです。光の部分は限りなく美しく、闇は暗い・・・。こうして「聖マタイの召命」と「聖マタイの殉教」を完成させたカラヴァッジョは、人々から大きな賞賛を受けます。彼を援助してくれているコロンナ伯爵夫人も彼のすばらしい才能をほめます。
教会では、異端裁判があり、ブルーノ修道士の火刑が行われました。群衆とともに、苦しみ叫ぶ修道士の最期を見たカラヴァッジョは、「聖マタイと天使」を描きます。しかし、あまりにも人間的な聖人の姿に、依頼者である教会はその絵の受け取りを拒みます。荒れるカラヴァッジョの姿に、デル・モンテ枢機卿は悲しみますが、もう彼を助ける力はありませんでした。枢機卿の館を出たカラヴァッジョは、街娘のレナをモデルに、「ロレートの聖母」を描きます。しかし、その絵は教会から非難され、彼をやさしく包むレナの身にも危険が及んできました。トマッソーニの仕業だと知ったカラヴァッジョは、彼に決闘を申し込み、彼を刺し殺していまいます。
決闘には勝ったものの、重傷を負ったカラヴァッジョは、コロンナ伯爵夫人に助けられます。傷を癒やしていく彼のもとに、死刑宣告の通知が届きました。カラヴァッジョに理解を示しているコロンナ伯爵夫人の息子ファブリツィオは、なんとか助けようと、カラヴァッジョをマルタ騎士団へ送ります。しかし、騎士団の団員たちは、彼を迎えることに賛成する者と反対する者とに分かれていました。
ルターやカルヴィンによる宗教改革が起きた16世紀初め、教会を飾っていた絵画は偶像崇拝だとされ破壊されたところもあります。そのあおりを受けて刷新しようとしたカトリック教会は、プロテスタントによって離れてしまった勢力を回復しようと、アジア、アフリカ、アメリカへと海外宣教に乗り出しました。また、信徒たちにわかりやすく信仰へと導くための教会美術を求めていました。そこに登場したのが1571年に生まれのカラヴァッジョです。彼の描いた絵は、聖職者ばかりでなく庶民の心をも魅了しました。
今回カラヴァッジョを保護したデル・モンテ枢機卿の会話の中にも出てくるローマ教皇の甥であったシピオーネ・ボルゲーゼ枢機卿は名門貴族の出身で、デル・モンテ枢機卿と同じくパトロンとして画家たちを支援し、多くの絵画・彫刻を集めました。ボルゲーゼ美術館は、シピオーネ・ボルゲーゼ枢機卿が集めた作品が土台となり、ルネサンス・バロックの宝庫とされています。日本初公開のボルゲーゼ美術館展が、4月4日まで、東京都美術館で開催されています。美術館に収集されているカラヴァッジョの作品も展示されています。この機会に、映画「カラヴァッジョ」とともにぜひご鑑賞ください。