home>シスターのお薦め>お薦めシネマ>おとうと

お薦めシネマ

バックナンバー

 おとうと

2010年2月

おとうと

  • 監督:山田洋次
  • 脚本:山田洋次・平松恵美子
  • 音楽:冨田勲
  • 出演:吉永小百合、笑福亭鶴瓶、蒼井優、加瀬亮、
       加藤治子、石田ゆり子、小日向文世、小林稔侍
  • 配給:松竹株式会社

2010年 日本映画 2時間6分

 

昨年公開された西川美和監督の「ディアドクター」で、第52回ブルーリボン賞主演男優賞を受けた笑福亭鶴瓶が、またまたいい味を出している作品です。鶴瓶さんは普段と同じようにぼーっとしていて自然体なのですが、その陰で、実は結構こだわった演技をしているのかもしれません。と思うのは、息を引き取る場面では、「うまいな!!」と、ちょっとうなってしまいました。酒がなせる失態の連続で、家族との関係性を切られた弟と、一度は絆を切ったものの、さびしそうな弟が心配で最期を看取る姉。「あなたのことを思っている」という姿勢を伝えると、受けた人はまっすぐに生きるようになる、人のやさしさをきらりと輝かせてくれた山田洋次監督の人間を見つめる目のぬくもりが伝わってきます。

 

物語

東京の小さな街で、薬局を営んでいる吟子(吉永小百合)は、夫を早くに亡くし、一人娘の小春(蒼井優)と姑の絹代(加藤治子)とつつましく暮らしていた。小春の結婚式を明日に控えた日、郵便物の中に、宛先人不明の封筒が戻ってきた。吟子の弟・鉄郎(笑福亭鶴瓶)に出した招待状が戻ってきたのだ。夜、3人でささやかなお祝いをしているとき、絹代は吟子に、あの弟は来るのかと尋ねた。来ないことを知った絹代はホッと胸をなでおろした。息子の13回忌のとき、鉄郎は酒を飲んで大暴れしたからだ。

おとうと
(C)2010「おとうと」製作委員会

しかし、結婚式の日、羽織袴を身につけた鉄郎が、披露宴会場に突然やってきた。吟子の兄の庄平(小林稔侍)は追い返せというが、吟子は鉄郎の席を準備させ、絶対酒を飲まないということを条件に席に招いた。最初はおとなしくウーロン茶を飲んでいた鉄郎だったが、吟子が席を立ったすきに吟子のシャンパンを飲み、気がついてみると、宴会場の真ん中で一気飲みをさせられて興に入っていた。ついには、司会者のマイクを取り上げ、自分が小春の名付け親だといい、“女房の小春”から名をもらったと「王将」の歌をうたいはじめた。鉄郎の出現でしらけてしまった披露宴も締めくくりとなったが、その終わりも鉄郎がテーブルをひっくりかえす騒ぎとなった。吟子と一緒に、新郎の家に頭を下げに行った庄平は、鉄郎との縁を切ると宣言した。

おとうと
(C)2010「おとうと」製作委員会

小さいときから吟子は、弟の世話をやいて生きてきていた。ある日、鉄郎と一緒に暮らしていた女性が大阪からやってきて、鉄郎の借金を返してほしいと吟子に訴えた。その女性のために、なけなしの貯金を下ろしてお金を渡した数日後、ひょっこり鉄郎が姿を現した。「小春は幸せにやっているか」と声をかけるが、小春は、披露宴の騒ぎをきっかけにして、夫との違いを痛感し、離婚して家に戻ってきていた。鉄郎の優柔不断な言動に激怒した吟子は、鉄郎に絶縁を言い渡す。また小春も、「小春なんて名前はイヤなんだ」と鉄郎を怒鳴りつける。鉄郎は、「こんな自分はみなに理解されないのだ」と肩をおとして吟子たちの前から姿を消す。

小春が町に戻り、かつての生活が戻っていた。やさしい大工の亨(加瀬亮)が家に訪れるようになり、なにかと親切にしてくれ、小春にも明るさが戻ってきた。穏やかな日々が続いていたある日、大阪の警察から電話がかかってきた。行き倒れになった鉄郎が、病院に運ばれたというのだ。縁を切ったはずの吟子だったが、別れたときの鉄郎の咳と顔色の悪さがきにかかり、大阪の警察の捜索願いを出していたのだった。

 

「また、めいわくをかけてしまった……。うとまれても仕方ない……」と自分の立場を分かっていながらも、姉から縁を切られたときのさびしさ・辛さが、鉄郎の後ろ姿の両肩に表れていました。ああ、かわいそうと涙が出てきました。そして、自分も他の人を拒んでいるとき、相手はきっと同じように感じているだろうなと自分の姿勢に心が痛みました。映画館では、圧倒的に中高年層が多く、その中でも男性がおいおいと泣いていました。

「みどりのいえ」を運営する夫婦(小日向文世、石田ゆり子)と、患者さんとの関わり方がすてきでした。「みどりのいえ」のモデルは山谷にあるホスピスをしている「きぼうのいえ」です。「きぼうのいえ」を創設した山本夫妻の思いがよく表現されていました。人と人のつながりが、じわじわと伝わってきます。


▲ページのトップへ