home>シスターのお薦め>お薦めシネマ>息もできない

お薦めシネマ

バックナンバー

 息もできない

2010年3月

Breathless

息もできない

  • 監督:ヤン・イクチュン
  • 脚本:ヤン・イクチュン
  • 音楽:インビジブル・フィッシュ
  • 出演:ヤン・イクチュン、キム・コッピ、イ・ファン、
       チョン・マンシク、キム・ヒス、ユン・スンフン
  • 配給:ビターズ・エンド、スターサンズ

2008年 韓国映画 130分

  • ロッテルダム国際映画祭タイガー・アワード(グランプリ)
  • 第10回東京フィルメックス 最優秀作品賞&観客賞ダブル受賞
  • アジア太平洋映画賞 男優特別賞
  • ファンタジア国際映画祭 最優秀映画賞、最優秀男優賞
  • 他、多数受賞
 

家族から来る生活の辛さ、重さ。若い世代はそれをどう処理していいか分からず、怒りを暴力に込めうっぷんをはらす。坂を転がり落ちるように、マイナスへマイナスへと向かっていく生活。ベトナム戦争に参加し精神を壊してしまった父親。生きる意味を失った女子高校生と青年が出会い、理解し合っていくことで生きる力を得ていくようになる。現代韓国の苦しみを描いた作品です。

 

物語

サンフン(ヤン・イクチュン)は、マンシク(チョン・マンシク)のもとで取り立て屋の仕事をしている。負債者から力ずくで借金を取り立てたり、暴力で屋台を撤去したりして、サンフンの荒さに後輩の若者も恐れをなしている。

サンフンの吐いた唾が、女子高校生のヨニ(キム・コッピ)の服にかかった。勝ち気なヨニは、年上の怖い風貌のサンフンを恐れずに文句を言う。言い争ってサンフンに殴られ気を失ってしまう。意識を取り戻したとき、そこにはまだサンフンがいた。

サンフンの父親は、母と妹を暴力で死なせた罪で刑務所に入っていた。父親を憎み続けていたサンフンは、出所して家に戻ってきた父に暴力をふるってしまう。荒れた生活をしているサンフンだが、姉の子のヒョンイン(キム・ヒス)にはやさしく、何かと見守っていた。

サンフンとヨニは、たびたび出会うようになる。ヨニの父親はベトナム戦争に参加したが、帰国後に精神を壊していた。ヨニの母親は、屋台で働きながらヨニと弟のヨンジェ(キム・コッピ)を育てていた。しかし、屋台撤去に来たサンフンたちの暴力を受け、殴り殺されてしまう。妻が死んだことを理解できす、自分たちを罵倒する父親の姿に生きる希望を持てなくなったヨンジェは、学校にも行かず、ヨニの財布からお金を盗み取るような毎日だった。

息もできない

お金欲しさから、ヨンジェは友達のファンギュ(ユン・スンフン)に誘われ、マンシクのもとで取り立て屋の仕事をするようになる。ファンギュとヨンジェは、サンフンについて仕事を学んでいくが、要領の悪いファンギュは、いつもサンフンから怒鳴られ、役に立たないヤツとバカにされていた。

「おじいちゃんを殴るのはやめて! パパもママをあのように殴った!」と訴えるヒョンインに、サンフンはかつての自分を見ていた。ヨニと過ごす時間が大切になっていったサンフンは「変わろう!」と思い、今の仕事をやめる決心をする。サンフンはヨンジェと一緒に、最後の取り立ての仕事に向かった。仕事を終えたらヒョンインの学芸会に行くと約束したサンフンだが、彼を待つマンシクとヨニ、ヒョンインの前に戻ることはできなかった。

 

監督のヤン・イクチュンは、主演、製作、脚本、編集の5役をこなし、まさに全存在をかけてこの映画を作り出しました。「自分と家族との間の問題を、これ以上抱えていては、この先、生きてはいけない」という思いから脚本を書き、資金を集めて製作を始めたそうです。

最初は、一度も笑わず泣かず、悪に徹したサンフン像だったそうですが、脚本を書きながら変わっていったそうです。年齢を重ねていっても、あのままでいいのだろうか、と。一度きりの人生だから、幸せになったほうがいい……ということで、映画のようなシナリオになったとか。自分の思いをすべて出した作品を作ったヤン監督にとって、「息もできない」は、人生の大きな区切りとなったことでしょう。


▲ページのトップへ