home>シスターのお薦め>お薦めシネマ>抵抗 -死刑囚の手記より-
お薦めシネマ
抵抗 -死刑囚の手記より-
2010年3月
UN CONDAMNE A MORT S'EST ECHAPPE
OU LE VENT SOUFFLE OU IL VEUT
- 監督:ロベール・ブレッソン
- 原作:アンドレ・ドゥヴィニー
- 音楽:モーツァルト「ミサ曲 ハ短調」K427より
- 出演:フランソワ・ルテリエ、シャルル・ル・クランシュ
- 配給:クレストインターナショナル
1956年 フランス映画 97分
- 1957年カンヌ国際映画祭監督賞受賞
岩波ホールが、2010年から「名作映画は普遍的なものであり、映画をとおして時代と文化を考える、という観点で、旧作にも目をとめて上映しています。この<岩波ホールセレクション>第1回のテーマは、「抵抗と人間」で、フランス映画2本を上映します。第2次世界大戦時の占領下での人間としての誇りを描いた作品で、1947年の「海の沈黙」と、今回ご紹介する1956年の「抵抗」です。
どちらの作品も、セリフや解説などの言葉がそぎ落とされた映像が迫ってきます。登場人物のまなざしが、死と隣り合わせに暮らす人々の危機感と生命への希求を静かに描いていきます。モノクロの迫力を感じます。
物語
1943年、リヨン。当時、リヨンはドイツ軍に占領されていた。ドイツ軍に捕らえられたフォンティーヌ中尉(フランソワ・ルテリエ)は、たびたび脱走をはかるが、今回も失敗し、独房に入れられた。小さな部屋と小さな窓。拷問を受け、手錠をかけられて投げ込まれた。堅固な牢獄で、脱走者は即処刑だった。「だれかに見られている」と感じたフォンティーヌは重傷と見せかけ、身動きせずじっとしていた。
独房の中で考えることは、脱獄のことだけ。何度か挑戦したが、すべて失敗した。しかし、このままでいいのか……。
やがて起き上がり高窓から中庭を見ると、3人の捕虜が散歩をしていた。外部と連絡を取る手段があると伝えられ、フォンティーヌは高い窓からひもをたらす。その先には、袋状に結んだハンカチが下がっていた。毎日窓から下りるその袋には、鉛筆、紙、カミソリの刃などが入れられようになった。
日数が立ち、フォンティーヌの手錠が外され、中庭に出ることができるようになった。洗面所では数人の同士と情報交換をした。食事のときにスプーンを手に入れ、床のコンクリートにこすって削った。毎日、毎日、音を出さずに削った。そのナイフで、ドアの板の間に筋を入れ、板目を外せるようにした。一か月後、板目が外れ廊下に出ることができた。しかし、どうやって外に出るのか……。看守の目は厳しい。ルートを変更し、天窓から屋根づだいに出ることにする。そのためには、長い綱が必要だ。
仲間の一人が脱走に失敗し、銃殺された。しかしフォンティーヌはあきらめなし。さらに慎重にことを進める。家族からの差し入れの服は、すべて綱になった。窓枠の鉄から鉤を作った。準備はできた。
ある日、一人の少年ジュスト(シャルル・ル・クランシュ)が独房の同居人となった。彼はスパイなのか。だれを信じたらいいのか、だれを仲間にしたらいいのか……。フォンティーヌは迷ったが、ジュストにすべてを話した。そして、ある夜、2人は脱走を決行した。窓から外に出たが、下を見ると見回りをする看守たちの姿があった。
「抵抗」は実話に基づいた作品で、主役には、素人の学生を起用されました。ブレッソン監督は、演技を最小限にとどめるため、プロの役者ではなく、よく素人を起用したそうです。
死刑を宣告された後も、動揺することなくひたすら脱獄のための作業に集中していくフォンティーヌの行動が、彼の狭い生活周辺だけで撮影されていきます。彼の近くにカメラがあり、指先をうちし出す場面が多いので、見ている者は自分のことのように感じ、緊張が走ります。いつ発覚するのかと身動きできず、息をひそめて見てしまいました。
生きることへの希望と光を求めて、自分の持っている知識のすべてを出し切っていくフォンティーヌを見ながら、生きるためには、こうしたいという強い意志と忍耐強さ、そして行動を起こすときの決断力が必要で、人間はそういう能力を与えられいるのだと思いました。あきらめてはいけないのです。「求めなさい。そうすれば、与えられる。探しなさい。そうすれば、見つかる。門をたたきなさい。そうすれば、開かれる」(ルカ11.9)というイエスの言葉を思い出しました。小さな努力、生きたいという願いを持ち続けることを神は見ておられるのですね。