お薦めシネマ
書道ガールズ!! –わたしたちの甲子園–
2010年5月
- 監督:猪股隆一
- 脚本:永田優子
- 音楽:岩代太郎
- 書道監修:岩飛博光
- 出演:成海璃子、山下リオ、高畑充希、小島藤子、桜庭ななみ、
市川知宏、金子ノブアキ、織本順吉、宮崎美子
- 配給:ワーナー・ブラザース映画
2010年 日本映画 120分
「書道」と言うと、正座をして背筋を伸ばし、しずかに墨をすって、おもむろに和紙を広げ……というイメージで、「静」とか精神性を感じます。しかし、現代は違うのです。「書道ガールズ!! -わたしたちの甲子園-」は、まさに熱気あふれる若者の書道! そこは「墨」一色の世界ではありません。10m四方ほどの大きな和紙を前に、思い思いのコスチュームを着た数名の生徒が、音楽に乗せて文字を書いていくのです。色文字あり、絵あり、道具も、大小の筆だけではなく、モップもOKの世界。パフォーマンスもあります。どのような文字を書くのか、青春のどんな思いを込めているのか、どのように書くのか、チームワークとメッセージ性、もちろん、書のうまさが求められる総合芸術なのです。これを書道部の高校生たちによる高校対抗のコンテストにし、「書道パフォーマンス甲子園」と名付けました。実話に基づいた、ある高校書道部のお話です。
物語
書道部の教室。3人の男子生徒は、なにやらしゃべりながら、ただ墨をすっている。ある女子生徒は、一人黙々と筆を進めている。もう一人は、イヤホンをして音楽を聴きながら、窓の外を眺めている。他の一人は、スナック菓子の袋を手にしながら、和紙の前に座っている。なんともやる気のない、まとまりのない書道部である。
そんな中で一人元気に声を出しているのが、香奈(桜庭ななみ)である。香奈は、3年間書道部員としてがんばった印として、書道展の団体戦で賞がほしい~~とみなに訴える。しかし、反応を示す者はだれもいない。部長の里子(成海璃子)の父親は書道家だが、彼女にとって書は父親に認めてもらう手段でしかない。里子にやる気のない理由は、もう一つあった。里子とは全く違うのびのびとした書を書く美央(山下リオ)が、書道部を去っていったのだった。
そんな書道部員たちの前に、顧問として池澤先生(金子ノブアキ)がやってくる。が、池澤もやる気がなく、教える様子も見せない。いやみばかり言って、里子を怒らしている。
ある日、池澤が校庭に大きな和紙を広げ、音楽に乗せて流れるような書を書いた。書道部員たちだけでなく、教室の窓から眺めていた他の生徒も、あっけに取られる。この人はいったい何者なのか。池澤は、才能ある若き書家として歩み出していたが、何のために書いているのかと自分の生き方に疑問を感じ、書から離れたのだ。
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書道部員の清美(高畑充希)は池澤の書に刺激を受け、父親の大好きな「柔」の歌に合わせて、公園で書き始める。通りがかりの小学生たちから、からかわれても、「そんなものを書道部に持ち込まないで!」と里子から怒鳴られても、「柔」で書き続ける。それには理由があった。清美の家は文房具店だったが、景気が悪く閉店して広島に行くことになったのだ。四国中央市は日本一の紙の町として有名だが、商店街はシャッター通りとなっていた。
清美の父親を力づけようと、書道部は文房具店の閉店パフォーマンスを思いつく。彼らの呼び込みで、文房具店の前には、開店以来というほど大勢の人が集まった。しかし、チームとして一つになっていなかったパフォーマンスは大失敗に終わり、力づける反対に、清美の父親に迷惑をかけてしまった。
(c)ntv
再びやる気を失う里子だが、引っ越していった清美の書への熱い思い、いつも音楽の世界に逃げていた小春(小島藤子)の里子への思い、また、幼なじみで何かと里子を力づけてくれる智也(市川知宏)の家の手作りの和紙工場が倒産し、おじいちゃん(織本順吉)が火事を出したことなどから、すべきことに気がつく。
紙の町、四国中央市。町のどこからでも見える3本の煙突が、自分たちの誇りだったではないか。里子たちは、人気がなくなってしまった商店街を活気づけるために「書道パフォーマンス」を行うことを考える。名付けて「書道パフォーマンス甲子園」!。池澤も指導に乗り出した。パフォーマンスの基礎となる体力作りから始める特訓に弱音を吐きながらも、部員たちの心は一つになっていく。里子は、勝つためにはもう一人必要だと、美央のもとを訪れる。美央は、母親(宮崎美子)が病気で入院しているので、そのために高校を辞めることを考えていた。しかし「あなたのやりたいことをやりなさい」という母親の言葉に押されて、里子の前に戻ってくる。
(c)ntv
里子たちの呼びかけに、3つの高校が参加を登録してくれた。こうして町を挙げての「書道パフォーマンス甲子園」の日がやってきた。
愛媛県四国中央市にある愛媛県立三島高校の書道部は、国際高校選抜書展で連続優書したこともある有名な書道部です。「町に活気を取り戻したい」と、市内のショッピングモールやスーパーで、「書道パフォーマンス」を行いました。その思いが、地元のテレビ局を動かし、地元の「紙まつり」のイベントとして、2008年に「書道パフォーマンス甲子園」を開催しました。これまで4回、開催されています。彼女たちの熱い思いが全国に伝わり、映画化となりました。
重い筆を抱え、飛び散る墨で顔も衣服も真っ黒になり、書道パフォーマンスはすごい肉体動労です。出演者は、みな書道の特訓を受け、実際に自分たちでパフォーマンスを完成させました。高校生でないと体験できない熱い思いに、地域の人々も、そして見ているわたしたちも元気をもらいます。
活気を失った町の再生、池澤の再生、母親の病気で大学に行くことをあきらめた美央の再生、清美の新しい高校での再生、おじいちゃんの再生、そして、里子自身の再生。高校生たちの工夫を凝らした「再生」の書に、胸が熱くなりました。
NHKでも『とめはねっ! 鈴里高校書道部』のドラマがありましたが、書道がもっと身近なものとなり、ブームとなればいいですね。