お薦めシネマ
音の城♪音の海 SOUND to MUSIC
2010年6月
- 監督・編集:服部智行
- 出演:音遊びの会、ゲストミュージシャン(石村真紀、
江崎將史、大友良英、片岡祐介) - 配給:音の城♪音の海上映実行委員会、エイブルアート・ジャパン
- 配給:ワーナー・ブラザース映画
2009年 日本映画 90分
- メセナ アワード2009「ベスト・コラボレーション賞」受賞
自閉症、ダウン症、ウィリアムズ症候群などの知的障害を持った子どもたちとの、即興音楽を研究している学生たちがいます。彼らは音楽療法を学んでいる学生たちで、「知的障害を持っている子どもたちと、楽しい音楽を作り上げていこう!」というプロジェクトを立ち上げました。そこにプロの音楽家たちも集まってきました。彼らは、子どもたちとプロの演奏家たちが共演するコンサートを開くことを目指して、集まりを重ねました。
まずすることは、一人ひとりがどの音、どの楽器に共鳴するのかを見ていくことです。そのために、音楽の中に身を置いて、彼らの音への興味を見ていきました。大人たちに見守られながら、子どもたちは、自由に音を感じ、音を表現していきます。楽器をさわったり、身体を動かしたり、指揮を始めたり、また、クレパスを持って絵を描き始めた子もいます。一人ひとり感じるところは違いますが、音は子どもたちに刺激を与えることは確かです。次第に、共演の組み合わせができてきました。しかし、大人の思惑どおりには動いてくれない子どももいて、失敗か……と落ち込むこともあります。最初は戸惑い不安に思っていた演奏家たちも、次第に変わっていきます。子どもの中にある可能性を見つけ引き出すために、じっと「待つこと」を学びました。
すぐ反応を示す子、音楽と関係なく遊んでいる子、さまざまですが、時間をかけることが必要です。出会いを重ねていくことによって、音の海の中で、次第に子どもたちの心が戯れていき、表現をしていくようになりました。音楽って、こんなに楽しかった? と映画を見る者の身体もリズムに乗って動きます。学生と音楽家たちは、一人ひとりの特長を生かして、その子が表現しやすいように考えます。
コンサートの日がやってきました。トランペット、ピアノ、ヴァイオリンなど、次々にステージに立ちます。すべて即興ですから、演奏家は、自分のパートナーである子どもたちをじっと見つめ、どんな音を出そうとしているんかと思いを想像します。
トランペットは吹く楽器ですが、子どもの動きを見ていた演奏者は吹くことをやめ、トランペットの音がでるひろい口を床につけて引っ張りました。キィ~~~ン。まさに「楽器」です。
つぐみちゃんは、はにかみ屋さん。細い指で、ピアノの鍵盤を押さえました。消え入るような弱い音です。しかし、じっと待ちました。会場の全員が、つぐみちゃんの奏でる音に集中します。即興のメロディーですが、音は彼女の存在から出てくる音でした。
すばらしいリズム感で指揮をする男の子がいました。演奏家たちは、コンサートの終わりに行う総合演奏の指揮を彼に任せることにしました。集中力が短い子ですが、一曲を指揮し抜きました。
いつも窓辺に座っている女の子は、口癖になっている「どっこいしょ!」という言葉で歌をつくりました。
プロの演奏家たちも、ステージ上で音を楽しむ子どもたちの能力のすばらしさに、うっとりとしています。果たしてステージに立てるのだろうかと苦労したことが、喜びに変わる瞬間です。会場のお客さんたちも、子どもたちの音への感性のすばらしさを、しっかりと味わっているようでした。「音楽とは、こういうことか……」と感じるコンサートで、気がつくと、映像の中のコンサートなのに、自分も参加していました。
ぜひ、彼らの音楽に触れてください。コンサートを目指して歩んできた人々の間には、相手を受け入れる、相手を待つというやさしい心、“愛”が満ちている心地よい空間です。