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 玄牝 -げんぴん-

2010年10月

 

玄牝

  • 監督・撮影・構成:河瀬直美
  • 音楽設計:菊池信之
  • 音楽:ロケット・マツ(パスカルズ)
  • 出演:吉村正、吉村医院に関わる人々
  • 協力:吉村医院
  • 配給:組画、東風
 

2010年 日本映画 92分

  • スペイン・サンセバスチャン国際映画祭 国際批評家連盟賞受賞


樹木に囲まれた古い農家のような家。愛知県岡崎市にある吉村医院。院長の吉村医師は、1961年から自然のお産を奨励しています。

朝、若い女性たちが次々と集まってきます。妊婦さんたちです。壁にむかってスクワットをしている妊婦さん。「50回を1セットで、1日300回している。体調もいいし、精神的にもゆとりが出てきた。気持ちいいという感じ」と答えます。

吉村医師は言います。「今の医療は『お産は怖い怖い』と教える。すごく不安になり。それが難産にしてしまう。自然に生まれるように、整えていっている。ツルンと生まれるようにするのが、自分の役目と思っている。ところが、お産に対して否定的なことばかり言われるから、苦しくなる。昔の医療をそのまましているのではない。現代の医療もちゃんと使っている。」

このような吉村医師のうわさを聞いて、妊婦さんたちが集まってくるのです。

「一人目は、陣痛促進剤を打たれて、帝王切開で大変だった。しかし、2人目は自然に産みたいと思っている」。

「子どもがなかなか出て来なくて、陣痛促進剤を打たれ、おなかを押された。出てきたとき、子どもをかわいいと思えなかった。生まれた瞬間に、自分が大事だった」と涙ぐむ母親。

臨月(10か月)になる一人目を産もうとしている妊婦が、薪割りをしています。両足を開き、ナタを振り落とすと同時に腰を落とすと、気持ちよく、薪が割れました。畑の畝作りのため、クワを振り上げる妊婦さんもいます。

「畑で、土を耕す。動きたくてたまらない。土のにおい、クワの音にいやされる。お産の怖さも痛さも『ドンと来い』という感じ。」

冬の小鳥
(C)Kumie

出産の場面も出てきます。夫と上の息子2人が、母親の手を握っています。「痛い」という小さな声が、妊婦からもれます。黙って母親を見つめる夫、子どもたち、祖母。まもなく、助産婦さんが出てきた赤子に手を添え、……生まれました。おなかから出てきた赤ちゃんは、助産婦さんの手によって、へその緒がついたまま母親の胸に置かれます。痛みから解放された母親は、「会いたかった、合いたかったよ!!」と涙声です。「あったかいね~」 緊張が解けたのか、感動したのか、小さな息子は黙って涙を拭いています。吉村先生は、そんな家族を黙って見つめています。

このような静かな、そして劇的な出産が、ここ吉村医院で行われています。

河瀬監督は、吉村医院の周囲の木々や畑、木漏れ日など自然をゆっくりと映していきます。人間も自然の中の一つの営みであり、いのちあるものはみな同じなのだと感じます。

近くでは、広い土地でブルドーザーによる宅地開発が行われています。繁栄を求めて失われていく自然が映し出されます。

いのちを体内ではぐくんでいるという喜びに満ちた妊婦さんたちの美しい顔を見ていると、こちらもゆったりとした気持ちになり、いやされていくことを感じます。

このような中で、医師である父を持った娘の苦しみも取り上げています。

吉村医院のような出産が広がっていったら、平和な世界も遠くないと思えてきます。


※タイトルの「玄牝」とは、老子のことばで「谷神不死。是謂玄牝」から来ています。大河の源流にある谷神は、とめどなく生命を生み出し尽きることがない。女性(器)も同じように、万物を生み出す源であり、その働きは尽きることがない。「神秘なる母性」これを玄牝と呼んでいる。(映画パンフレットより)

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