お薦めシネマ
ふたたび
2010年10月
SWING ME AGAIN
- 監督:塩屋俊
- 原作・脚本:八城潤一(『ふたたび』宝島社文庫)
- 音楽:中村幸代
- 出演:鈴木亮平、財津一郎、MINJI、陣内孝則、
古手川祐子、犬塚弘、藤村俊二、佐川満男 - 配給:ギャガ
2010年 日本映画 111分
ジャズバンドに青春の夢をかけた青年たちが、夢の実現を前にして突如解散となりました。しかし、それぞれの人生を歩んだ後、あのときに交わした約束を果たすため、50年後に再び出会い夢を果たすという、友情と家族愛の物語です。財津一郎さんが、頑固だけれど優しいおじいちゃんとして、いい味を出しています。
物語
両親と暮らす大学生の大翔(ヒロト・鈴木亮平)は、大学のバンドでトランペットを吹いている。彼にはあこがれのジャズバンドがあった。それは父が持っているレコードの中にある“COOL JAZZ QUINTETTE”だった。幻のジャズバンドと呼ばれ、たった一枚のレコードを残して姿を消していた。大翔は、レコードから聞こえてくるトランペットの音色にひかれ、どんなバンドなのか知りたいと思っていた。
ある日、父・良雄(陣内孝則)から、すでに亡くなったと教えられていた祖父が実は生きていて、同居することになったと打ち明けられた。さらに、祖父・健三郎(財津一郎)は、50年近くハンセン病療養所で暮らしていたことも知らされた。母・律子(古手川祐子)は、健三郎が家に来ることを快く思っていないようだ。
あまり語らない健三郎に、大翔はどう接したらいいのか分からずにいたが、“COOL JAZZ QUINTETTE”のレコードをかけたことから、健三郎が、あの幻のジャズバンド“COOL JAZZ QUINTETTE”のトランペッターであることを知る。
しかし、大翔の恋人は、大翔の祖父がハンセン病だったことを知り、家族から交際を反対されて去っていった。姉の縁談も破談となった。律子も、何かと健三郎の行動に制約をつけるようになる。
(C)2010「ふたたび」製作委員会
ある日、健三郎が消えた。やっと見つけた健三郎は、「人生でやり残したことがある」と、旅に出るという。不自由な体の健三郎を一人にできず、大翔も同行せざるをえなくなった。療養所の看護師:ハヨン(MINJI)もこの旅に同行した。
50年前、“COOL JAZZ QUINTETTE”の仲間は、いつか神戸のジャズクラブ「SONE」のステージに立つことが夢だった。その夢がかなう道が開かれたとき、健三郎が病気となり、「SONE」のステージに立つことができなくなったのだった。バンドから離れるとき、「いつかかならずSONEに立とう!」という仲間の言葉を、健三郎は50年間思い続け、療養所のある島で、毎日海に向かってトランペットを吹いていたのだった。健三郎は、残り少ない人生の終わりに、バラバラになったバンド仲間を訪ねたいと思っていた。その中には、バンドの紅一点、ピアニストの百合子(MINJI)もいた。彼女は、健三郎の恋人でそのとき身ごもっていたが、ハンセン病の子を産んだということで、家族からも産んだ子どもからも引き離されたのだった。その子が、大翔の父・良雄だった。
(C)2010「ふたたび」製作委員会
健三郎の出会いの旅につきあいながら、大翔は、祖父、父、そして自分へとつながる家族の絆を感じていた。
この映画に登場する人物の多くが、健三郎を受け入れています。社会から阻害されてきたハンセン病患者ですが、差別は人が作り出すものであって、その人への愛は病気であっても変わることがないということを示しているように感じました。父親を求めて心配しているのに、素直に表現できない良雄は、健三郎の思いを知って理解し、抱き合うとき、長い間父と暮らせなかった思いがあふれ出ます。最初は舅を嫌っていた律子ですが、健三郎が愛を持って自分を見ていると知ったとき、健三郎の愛の前に赦しを願う心になっていきます。愛の力を感じる場面です。
大飛は、「人間としてほうっておけない」とか「家族だから」という言葉を、当然のこととして純粋に言います。今の時代、大切な言葉として輝いていました。
ハンセン病というと、「砂の器」のように差別と偏見が重くのしかかってきます。1996年に「らい予防法」が廃しされても、未だに偏見は続いています。しかし、この映画は、差別や療養所での生活のつらさを前面に出さずに、複線として表現することで、心の奥にある人間の愛と苦しみを伝えています。
追記:
10月10日、ちょうどジャズフェスティバルが開催されている日に神戸を訪れました。三宮駅からカトリック神戸中央教会に向かう坂道の途中に、映画の中に登場したジャズクラブ「SONE」を見つけました。