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 レイチェル・カーソンの感性の森

2011年 2月

A Sense of Wonder

レイチェル・カーソンの感性の森

  • 監督:クリストファー・マンガー
  • 脚本・出演:カイウラニ・リー
  • 撮影:ハスケル・ウェクスラー
  • 編集:タマラ・M・マロニー
  • 配給:アップリンク
 

2008年 アメリカ映画 55分



環境問題について考えるとき、バイブルのように取り上げられる本があります。レイチェル・カーソンの『沈黙の春』です。科学者であるレイチェル・カーソン(1907~1964)は、殺虫剤の科学物質が自然界に与える危険性を『沈黙の春』の中で訴えました。1962年に出版され、その後30か国で翻訳されベストセラーとなりました。『沈黙の春』を刊行後、カーソンは多くの企業から圧力を受けます。ある程度は覚悟していましたが、想像以上に厳しいものでした。反面、彼女への支持を表明する人々も現れました。実際、アメリカ政府は、この本をきっかけにして、DDTの使用を禁止する法律を定めました。

本作品はカーソンの最後の作品『センス・オブ・ワンダー』を映画化したものです。カーソンが愛していたメイン州の海岸にあるコテージを舞台にして、周囲の自然の映像を織り交ぜながら、人々に語りかけるカーソンをドキュメンタリータッチで映しています。カーソンを演じるのは、カーソンの最後の一年を描いた「センス・オブ・ワンダー」を、18年もの長いあいだ、一人芝居として演じてきたカイウラニ・リーです。約1時間の上映時間の間、カイウラニ・リーは、カーソンになりきり、語りで見る者を引きつけます。カーソンがどんな思いで、地球のこと、自然のこと、母親のこと、甥のロジャーのことを語り、終わりの方では、『沈黙の春』を刊行した影響について語っています。

「センス・オブ・ワンダー」とは、神秘や不思議さに目をみはる感性のことです。カーソンの甥のロジャーは、カーソンと同じように、コテージの周りにある海岸や林の中に隠れている“神秘や不思議”を見付けることが大好きでした。

レイチェル・カーソンの感性の森
  メイン州にあるカーソンが愛したコテージ 写真:森本二太郎

コテージでの休暇を終えて、そこを去らなければいけないとき、荷造りをしなくてはいけない時間なのに、去りがたい思いで、いつまでも波打つ岩場で何かを見付けているロジャーの姿が印象的です。子どもたちは、もともとこの感性を持っています。彼らがこの感性を失わないように、いえ、もっと豊かにしていくようにとカーソンは願います。自然の中で感じることは知識を得ることの数倍も大切なことだと語ります。

映画を見始めて、「あれ、どこかで味わったことがあるな~~」と感じました。2001年に公開された「センス・オブ・ワンダー レイチェル・カーソンの贈り物」(製作:グループ現代)です。あのときの、ゆったりとした雰囲気、自然の中にひたり、いやされていくような感じを、本作品からも感じました。

高い木々の間から降り注ぐ木洩れ日、海岸の岩場にゆれる海藻、打ち寄せる波の音、波打ち際の岩の下に隠れている小さな生き物、高い木々の足もとを覆う羊歯の群生、夜、海岸から見る広い星空・・・。カーソンはロジャーを連れて、よく森の中や海岸を歩いたといいます。発見がいっぱいの楽しい散歩だったことでしょう。カーソンの世界です。

「自然と触れ合えばみな、自然と恋に落ちる。それこそが地球を守る唯一の方法である」というカーソンの思いは、カイウラニ・リーをとおして多くの人々に伝わることでしょう。「センス・オブ・ワンダ-」を豊かにしていきたいものです。

レイチェル・カーソンの感性の森
 

カーソンのことばから

わたしたちは、いまや分かれ道にいる。どちらの道をえらぶべきか、いまさら迷うまでもない。長いあいだ旅をしてきた道は、すばらしい高速道路で、すごいスピードに酔うこともできるが、わたしたちはだまされているのだ。その行きつく先は、災いであり破滅だ。もう一つの道は、あまり《人も行かない》が、この分かれ道を行くときこそ、わたしたちの住んでいるこの地球の安全を守れる、最後の、唯一のチャンスがあるといえよう。
                   ………『沈黙の春』(青樹簗一訳 新潮文庫)より

環境問題に対する市民の活動が活発になり、国、会社、学校、地域、家庭エコ対策が需要になってきました。緑が守られるようになり、田舎暮らしや家庭菜園など、自然を大切に生きる人が増えています。カーソンが言う「もう一つの道」の方を選択できたと言えるのでしょうか?

地球規模で見ると、まだまだのようです。もう一歩深い「センス・オブ・ワンダー」を身につけ、カーソンの描く自然との共存を学びたいと思います。

映画「センス・オブ・ワンダー 神さまからの贈り物」 →  公式サイト(グループ現代)


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