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お薦めシネマ
未来を生きる君たちへ
2011年 8月
IN A BETTER WORLD
- 監督:スサンネ・ビア
- 脚本:アナス・トマス・イェンセン
- 音楽:ヨハン・セーデルクヴィス
- 出演:ミカエル・ペルスブラント、トリーヌ・ディルホム、
ウルリク・トムセン、ヴィリアム・ユンク・ニールセン、
マークス・リーゴード - 配給:ロングライド
2010年 デンマーク・スウェーデン映画 1時間58分
- 2011年アカデミー賞最優秀外国語映画賞授賞
- 2011年ゴールデン・グローブ賞最優秀外国語映画賞授賞
- 2011デンマーク・アカデミー賞最優秀主演女優賞
- 2010ローマ国際映画祭観客賞、審査員賞、他、多数受賞
「未来を生きる君たちへ」は、いじめや差別、抑圧で傷づけられた人が、憎しみや復讐心と、赦し受け入れる心との葛藤を描く社会派ドラマです。2つの家族をとおして、デンマークとアフリカを舞台に、大人の世界と子どもの世界で息を詰めるような場面が進んでいきます。
監督は1960年デンマーク生まれの女性監督で、すでに数々の作品が賞に輝き、「未来を生きる君たちへ」というスケールの大きな、そして人間の奥深いところにある心を描いた作品で、アカデミー賞とゴールデン・グローブ賞の最優秀外国映画賞受賞という栄光に輝きました。
物語
砂漠の中にあるアフリカの難民キャンプ。スウェーデン人の医師のアントン(ミカエル・ペルスブラント)は、今日もトラックの荷台に揺られ、仲間とともに難民キャンプの医療テントにやってきた。トラックの後を走ってついてくる子どもたちにサッカーボールを投げると、子どもたちはボールで遊びはじめた。
アントンが患者の治療をしているとき、人々が叫びながら担架に乗せた女性を運んできた。ビックマンにお腹を切り裂かれた妊婦だっだ。手当が遅ければ、死が待っていた。難民たちは凶悪なビッグマンを恐れていた。
アントンは、休暇でデンマークにいる家族のもとに帰ってきた。アントンの息子・エリアス(マークス・リーゴード)は、歯を矯正していたが、クラスのいじめっ子のソフスたちから「ネズミ顔」と呼ばれ、いじめられていた。エリアスは父親のアントンが大好きで、アフリカから帰ってくると、庭のテーブルで父親の話を聞くのが楽しみだった。しかし、やはり医師である母のマリアン(トリーヌ・ディルホム)には心を開いていなかった。両親は、アントンの浮気で別居中だった。
ある日、エリアスのクラスに、クリスチャン(ヴィリアム・ユンク・ニールセン)という男の子が、ロンドンから転校してきた。彼は母親をガンで亡くし、葬儀を終えると父親のクラウス(ウルリク・トムセン)とともに、デンマークに住む祖母の家に引っ越してきたのだった。
放課後、ソフスたちからいじめられているエリアスを見たクリスチャンは、助けに入るが自分も顔面にボールを投げつけられる。翌日学校のトイレで、エリアスに口止めを迫っているソフスを見つけると、クリスチャンはエリアスを守ろうとして、持っていたナイフでソフスに傷を負わせてしまう。
この事件をきっかけにして、エリアスとクリスチャンは親密な関係になっていく。クリスチャンの復讐心は、エリアスの思いと関係なく、どんどん大きくなっていく。
アントンはエリアスと弟のモーテン、そしてクリスチャンをつれて出かけるが、モーテンがブランコの取り合いで、他の子どもとケンカになる。割って入ったアントンに向かって、その子の父親は自分の子どもに触れたという理由で突然アントンに殴りかかる。アントンは殴り返すことはせず、子どもたちをつれてそこを去る。
このことから、クリスチャンは、アントンを殴りつけた男への関心を持つようになる。「バカを殴ったら自分もバカになる。そんなことをしたら世界はどうなる」と、アントンは復讐することのむなしさを子どもたちに教える。
仕返しをしないアントンに納得がいかないクリスチャンは、アントンを殴った男を偶然見つける。祖父の作業場で大量の火薬を見つけたクリスチャンは、火薬から爆弾を作ることを思いつく。
一方、アフリカに戻ったアントンのもとには、あいかわらずビッグマンにお腹を裂かれた妊婦が後を絶たなかった。そんな中、けがをしたビッグマンが部下に運ばれてやってきた。すでに傷は腐敗して歩けない状態だった。スタッフたちはビッグマンを治療することに反対し追い出すようにと言うが、アントンは、武器と部下をキャンプの外に出すことを条件に治療を行う。スタッフたちは、アントンから離れていった。
医師の使命だとして治療していたアントンだが、亡くなった女性に対して人間の尊厳に反するビッグマンの言葉を聞いたとき、ついに怒りをあらわす。「外に出て行け!」と激怒し彼から離れ去る。歩けないビッグマンがどうなるかは、分かっていた。キャンプの人たちはすぐに彼を囲み、暴力をふるいはじめた。アントンは敗北感にうなだれた。
デンマークでは、クリスチャンが着々と復讐の準備を進めていた。
紛争、学校でのいじめ、地域社会でのいざこざ。大きさは違っても、人間が感じる憎しみから生まれてくる行為です。さらに、両親に対する子どもの思い、夫婦関係、母の子どもへの思いがよく描かれています。
おどおどとしているエリアスと、復讐への道を狂気的に進むクリスチャンを演じる子どもたち、また、人間の犯す悲しい過ちを、悩み受け入れていく母親役のトリーヌ・ディルホムの演技がすばらしいです。
傷を与えた相手を赦し受け入れていくことの難しさと、それができたときのすばらしさに涙する作品です。