お薦めシネマ
ルルドの泉で
2011年12月
LOURDES
- 監督・脚本:ジェシカ・ハウスナー
- 出演:シルヴィー・テステュー、レア・セドゥー、
ブリュノ・トデスキーニ、エリナ・レーヴェンソン - 配給:エスパース・サロウ
- 2009第66回ヴェネチア国際映画祭5部門受賞
- 2009ウィーン映画祭最高賞受賞
- 2009ワルシャワ国際映画祭グランプリ受賞
- 2009セビリア映画祭金賞受賞
2009年 オーストリア・フランス・ドイツ映画 99分
ルルドを知ったのは、菅井日人氏の写真集『ルルド』をとおしてでした。そこには、補助者に助けられながら車イスや寝台に乗った人びとが映っていました。こんなにたくさんの人が救いを求めて集まってくるルルドという地に、驚きました。奇跡の泉の水が出るようになっている蛇口、洞窟の前に並ぶ10cmほどもある太く長いローソクの炎・・・。その中に、青空を背景にして、洞窟に張られたロープに杖や松葉杖が掛けられている写真がありました。ルルドに来て、杖なしで歩けるようになった人たちが、感謝を込めて置いていったのでしょう。
1858年2月11日、貧しい家の娘ベルナデッタが、薪を拾いに行った洞窟で一人の女性と出会います。「私は無原罪の御宿りです」と言った方は、聖母マリアでした。ベルナデッタは、その後18回も聖母に会いますが、人びとは信じませんでした。ある時聖母は、その場を掘るようにとベルナデッタに言いました。言われたとおりに掘ると、そこから水が湧き出ました。その後、この泉の水に触れたり飲んだりした人の病が癒やされるという奇跡が起きました。
今では、年間600万人もの人が訪れる世界的に有名な巡礼地となりました。訪れるのは、カトリックの信者ばかりではありません。また、病気で来ることができない家族の代わりにやってきて、泉の水を持ち帰る人も多くいます。
物語
ルルドを訪れた巡礼団が、夕食のため食堂に集まってきた。車イスの人、杖の人、脳に障害のある人、孤独な人など、奇跡を求めてやってきた老若男女は、マルタ騎士団という介護をする人びとに支えられながら、ルルドで数日を過ごす。
若い女性クリスティーヌ(シルヴィー・テステュー)は、体の自由を失う不治の病にかかり、車イスの生活だった。身支度も、食事も、トイレも、世話をしてもらう必要があった。マルタ騎士団の若いボランティアであるマリア(レア・セドゥー)がクリスティーヌの担当だが、同じマルタ騎士団のクノ(ブリュノ・トデスキーニ)の存在が気になるようで、クリスティーヌの世話を軽くみるようになっていた。そんなマリアを、リーダーのセシル(エリナ・レーヴェンソン)はいさめた。セシルは、クリスティーヌの身体を気にしていた。
(C)coop99 filmproduktion, Essential Filmproduktion,
Parisienne de Production, Thermidor
(C)coop99 filmproduktion, Essential Filmproduktion,
Parisienne de Production, Thermidor
クリスティーヌと同室のハートゥルさんは、マリアの態度を見て、何かとクリスティーヌを気にかけるようになっていった。彼女は、クリスティーヌのために祈った。
ルルドに着いた翌日、巡礼団は洞窟に向かった。マリアはクリスティーヌの手を取り、洞窟の壁に触れさせてくれた。そこでクリスティーヌは、洞窟の壁に両手を触れ一心に祈る高齢の男性を見た。クリスティーヌは水浴を終え、大きなローソクをささげ、司祭の祝福を受けた。翌日、ふたたび洞窟へ行ったクリスティーヌは、今度は自分で不自由な手を動かし、そっと壁に触れた。だれにもわからないほどの小さな出来事だった。
(C)coop99 filmproduktion, Essential Filmproduktion,
Parisienne de Production, Thermidor
ジェシカ・ハウスナー監督は、一切の説明をはぶき、巡礼団の一日を追いながら、他者に起きた奇跡をとおして起きる、人びとの心の中のさまざまな動きを描いていきます。人びとの表情も微妙です。ちょっとしたほほえみや、じっと見つめる目、そこにどんな意味が含まれているのでしょう。それは、見る人に任せられているようです。
昨年日本であいついで公開された「エディット・ピアフ 愛の讃歌」では主人公の友人を、「サガン-悲しみよ こんにちは」では主人公サガンを熱演したシルヴィー・テステューが、動かない身体の女性に起こる奇跡の体験者の思いを、繊細に表現しています。
「ルルドの泉で」を見ながら、わたし自身が自分の心の奥に入っていくように感じました。
- スペシャル 晴佐久昌英神父の映画評
→ 「奇跡を起こす映画」 --- SIGNIS JAPAN(カトリックメディア協議会)のサイト ---