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お薦めシネマ
普通に生きる ~自立をめざして~
2012年 1月
- プロデューサー・撮影:貞末麻哉子
- ナレーション:長谷川初範
- 音楽:木 -kodama- 霊
- 製作・著作・配給:マザーバード
2011年 日本映画 83分
静岡県富士市に、「でら~と」という生活介護事業所があります。映画「普通に生きる」は、重度の心身障がいを持っている子どもたちの保護者たちが作った施設「でら~と」の設立までの歩みと、その後の活動の広がりをとおして、「どんなに重い障がいがあっても、普通に生活できるようにする」ということがどういうことかを問いかけています。
重度心身障がい児は、特別養護学校を卒業した後は、家の中で家族の介護を受けて過ごすか、または施設に入るという道しかありません。特別養護学校を卒業した長女・元美さんを、施設に措置入院として体験入所した小沢映子さんは、施設に入ると人との交わりがなく、一人ひとりが大切にされていないことを体験します。「そこに置かれているだけで、放っておかれている。彼らはいろいろなことを感じているのに……」。
このような体験から小沢さんは、重度心身障がい児の保護者の会「はなみずき」を立ち上げ、生活地域に理想の施設を作ろうと活動を始めました。いろいろと勉強し、話し合いを重ねました。子どもたちに何が必要かを一番分かっている親たちが、福祉の利用者から担い手になったのです。
2000年10月に市の福祉課に書類を提出しましたが、市が提案した土地は郊外で、家から通うには遠すぎました。「町の中に作りたい」という希望を捨てず、2年後にやっと今の土地に決まり、2004年に「でら~と」が開所しました。
朝、「でら~と」に保護者たちが子どもを連れてきます。家での状態を聞き、スタッフは一日のプログラムを考えます。みながそろうと「今日は○○をします」と発表し合います。もちろんはっきりと言る子は少なく、スタッフが代弁するのですが、話せなくてもみんな分かっています。夕方までの時間を「でら~と」で過ごすことによって、子どもたちはリラックスし、仲間やスタッフなど多くの人とかかわることができるのです。
「おはよう!」
「朝の会」で今日のプログラムを発表
ノートパソコンで詩を書く
「でら~と」で大切にしているのが成人式です。小澤充さん・ゆみさん夫妻の娘・美和さんも、仲間たちと成人式を迎えました。その席で小澤ゆみさんは次のように言いました。「この子が小さいときは、死にたいと思ったこともありました。しかし今は、全く思っていません」。美和さんのお兄さんも、重度の障がいを持ち、一緒に「でら~と」に通っています。
小澤充さん・ゆみさん夫妻と、裕史さん、美和さん
また「でら~と」では、地域の人びととの交流を大切にしています。バザーのときは大変な賑わいです。「人びとが生活している町の中で生きていく」、そんな当たり前のことを実現しようとしています。
「でら~と」の設立代表者である小沢映子さんは、富士市の市会議員です。重度心身障がい者の保護者たちの声を市政に届けるために、3期目の市会議員として活躍しています。
設立代表者で富士市市会議員のの小沢映子さん
「はなみずき」の人たちは、今は自分たちのためだけでなく、これから特別養護学校を卒業する子どもたちや他の重度心身障がい者たちのために働き始めました。新しい施設をショートステイができるようにと考えたのですが、彼らの前に「法」が立ちはだかりました。壁にぶつかるたびに勉強し、道を探しました。そして2009年、第2の「でら~と」である「らぽ~と」が富士宮市に開所しました。そしてこの働きは、全国に広がっていきました。
「自分たちがいなくなったら、この子たちはどうやって生きていくのか」。親がいなくなっても生きていけるようにと親たちは考え、「親に頼らず、自立した生き方ができる」という希望を子どもたちも生きようとしています。
「でら~と」の所長・小林不二也さん
「利用者が持っている力を、いかに人びとに伝えるか」ということについて話す「でら~と」の小林不二也所長のことばが心に残ります。「“生産性があるか”と言えば、彼らは何もできない。しかし、彼らの存在と人とのかかわりが、彼らの働きとなる。その人のほほえみが、周囲の人の喜びとなる。彼らが人とかかわることで何かが生まれる。これは、生産性があると同じことだと思う」。