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お薦めシネマ
マーガレット・サッチャー - 鉄の女の涙 -
2012年 2月
THE IRON LADY
- 監督:フィリダ・ロイド
- 脚本:アビ・モーガン
- 衣装デザイン:コンソラータ・ボイル
- 出演:メリル・ストリープ、ジム・ブロードベント、
アレキサンドラ・ローチ、ハリー・ロイド、
オリヴィア・コールマン - 配給:GAGA
2011年 イギリス映画 1時間45分
- 第65回ゴールデン・グローブ賞ドラマ部門主演女優賞受賞
- ニューヨーク映画批評家協会主演女優賞受賞、他多数受賞
- 第84回アカデミー賞主演女優賞、メイキャップ賞受賞
「クレイマークレイマー」「ソフィーの選択」「ジュリア」「ディア・ハンター」「愛と哀しみの果て」「マディソン郡の橋」「ミュージック・オブ・ハート」「プラダを着た悪魔」「ダウト~あるカトリック学校で~」「ジュリー&ジュリア」と、たくさんの映画に主演・出演してきたメリル・ストリープ。その多くが話題の映画です。
今回も見せてくれました。メリル・ストリープ演ずる年老いたサッチャーは、まさに“老女”そのものです。メイキャップ技術もすばらしいのですが、細かい所作、姿勢、雰囲気に、鉄の女サッチャーのキリリとした部分と、記憶が定かでなくなっていく弱い部分が表現され、「さすがオスカー女優!」とうなってしまいます。女性としての人生を思いっきり生きたマーガレット・サッチャーを、メリル・ストリープが思いっきりなりきって演じています。
物語
双子の子どもたちはそれぞれ独立し、政治の場を去り、愛する夫・デニス(ジム・ブロードベント)も亡くなって、英国初の女性首相だったマーガレット・サッチャーは一人暮らしをしていた。夫の背広を整理しようとしている毎日だが、なかなかすすまない。迷っていると夫が語りかけてくる。マーガレットは、夫との会話の中で日常を過ごしていた。医療ではそれを「幻想」という。母の様子がおかしいと思った娘のキャロライン(オリヴィア・コールマン)につれられて病院にきたマーガレットだったが、「幻想は見えますか?」という医師の質問に、「いいえ」と答えていた。
ある日、できあがったばかりの積み上げられた自叙伝にサインをしていた。「マーガレット・サッチャー」と書いていたところ、つい旧姓の「マーガレット・ロバーツ」と書いてしまった。マーガレットはあわてながらも、若いときの日々に思いをはせた。
1925年、マーガレット・ロバーツ(アレキサンドラ・ローチ)は、雑貨店を営む家に生まれた。父が町民議会で演説するのを見て育ったマーガレットは、オックスフォード大学に入り、卒業すると政治家を志した。男たちの集会に出かけていき、政治談義に耳を傾けていた。
(c)2011 Pathe Productions Limited, Channel Four
Television Corporationand The British Film Institute
1950年、下院議員選挙に立候補するが落選。落ち込んでいた彼女に、デニス・サッチャー(ハリー・ロイド)が声をかけた。彼女に好意を抱いていたけデニスはプロポーズする。しかし彼女は言う。「食器を洗って過ごす一生は送りたくない。わたしにはもっと大切なことがある」と。そんなマーガレットの思いは百も承知のデニスだった。
結婚した2人に、1953年、男女の双子が生まれた。1959年、下院議員に当選したマーガレットは、泣いて追いすがる子どもたちを振り切って、国会議事堂へと車を走らせた。国会は、男だけの世界。そこへ水色のスーツにパンプスを履いた女性が入る。女性トイレの確保も難しかった。そこでは、女性差別だけでなく、「庶民の出」ということでバカにされた。
(c)2011 Pathe Productions Limited, Channel Four
Television Corporationand The British Film Institute
丁々発止のやりとりの国会で、マーガレットは男性議員に負けていなかった。やがて教育科学大臣になり、ついには保守党党首選への出馬を決意する。当選するとは思っていなかった。ただ、男性どものはっきりしない態度に刺激を与えたかったのだ。家族にその思いを打ち明けるとデニスが反対した。「君は家庭を壊す気か!」。
「党を変えたければ党を率い、国を変えたければ国を率いる」。同じ保守党の議員の協力があり、やがてデニスも彼女を応援するようになる。マーガレットは服装や演説の仕方を学び、1975年、保守党党首に当選。その後、保守党が総選挙で勝ち、1979年、イギリス史上はじめての女性首相が誕生した。
(c)2011 Pathe Productions Limited, Channel Four
Television Corporationand The British Film Institute
初登庁のとき、マーガレットは、アッシジの聖フランシスコの「平和を求める祈り」を唱え、イギリス国民に自分の信念を表した。
1990年、65歳で首相を辞めるまで、彼女の前には国内外のさまざまな問題が立ちふさがり、身を削るような決断が迫られた。
(c)2011 Pathe Productions Limited, Channel Four
Television Corporationand The British Film Institute
見終わった後も、メリル・ストリープの力強い声が耳に残り、しばらく映画の世界に浸っていました。格調高き身分の人々が集まった男性たちの議会の中で、庶民出身とバカにされた若い女性が、国のために男性たちを抑え、国の舵取りを任されました。マーガレット・サッチャーの人生には、傍目には推し量ることができない苦労と忍耐があったことでしょう。しかし、女性としていただいた性・生を思い切り生きた人だと思います。自分の決断に国民の命がかかっているという厳しい立場、また軍の責任者たちを前にしながら、肩を張って己を律していた部分も大いにあったことでしょう。それを支えたのは、結婚以前から彼女をだれよりも理解していた夫・デニスでした。
「英国初の女性首相」「鉄の女」として遠くに見られていたサッチャーですが、この映画を通して、あの時代の中で首相となった彼女の偉大さを知ることができました。また、夫の手を握りながら生きた、妻としてかわいらしさもありました。表舞台から去った母の世話をする娘の、母への距離感もいい感じです。
マーガレット・サッチャーは、鉄の女、戦いの女、そして輝くステキな女性です。