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 かぞくのくに

2012年 8月

かぞくのくに

  • 監督・脚本:ヤン・ヨンヒ
  • 音楽: 岩代太郎
  • 出演:安藤サクラ、井浦新、ヤン・イクチュン、宮崎美子、
         津嘉山正種
  • 配給:スターサンズ

2012年 日本映画 1時間40分

  • 第62回ベルリン国際映画祭フォーラム部門公式出品
  • C.I.C.A.E賞<国際アートシアター連盟賞>受賞

ヤン・ヨンヒ監督は、大阪生野区で生まれた在日コリアン2世です。15歳のときに韓国の済州島から日本に渡ってきた父は、朝鮮総連(在日本朝鮮人総聯会)の幹部として、在日朝鮮人の人々のために力を尽くしてきました。ヤン・ヨンヒ監督には、3人の兄がいますが、彼女が幼いころ、帰国事業で北朝鮮に渡っていきました。母は、今は北朝鮮で結婚し家庭を持った息子たち家族のために、お金をためては生活用品を送っていました。

2001年の秋、息子たちの招きで、ヤン・ヨンヒ監督は両親とともに北朝鮮のピョンヤンを訪れました。生野区での在日コリアンたちの生活と北朝鮮に招かれていったときの様子を映像に納めたのが、ヤン・ヨンヒ監督の最初の映画「ディア・ピョンアン」です。この映画は、数々の映画祭に出品され、たくさんの賞を受賞しました。

2009年に「ディア・ピョンアン」の続編となる「愛しきソナ」を発表し、「かぞくのくに」は3作目になります。「かぞくのくに」が前2作と違うのは、ドキュメンタリーではなくドラマになっている点です。

北朝鮮で暮らす長兄が病気になり、手術を受けるために、25年ぶりに日本に帰って来ました。この出来事を、前2作のように、ヤン・ヨンヒ監督自身がカメラをまわすドキュメンタリーではなく俳優が演ずることにより、テーマはより普遍化されました。生活状態のまったく違う国に分かれて暮らす家族のドラマは、特殊な情況に「ある家族の出来事」ではなく、どの人にも、どの家族にも起こり得る、考えさせられる内容となりました。


物語

在日朝鮮人2世のリエ(安藤サクラ)は、日本語学校の講師、父(津嘉山正種)は同胞協会本部の副委員長、母(宮崎美子)は喫茶店を営んでいる。

リエは、協会の会館で、父や叔父(諏訪太朗)とともに、北朝鮮から25年ぶりに日本に帰ってくる兄ソンホ(井浦新)を待っていた。兄は他の2人の男女とともにやってきた。3人は、病気を治すために来日し、約3ケ月滞在すると言う。

会館から叔父の車に乗って家に帰る間、ソンホはめずらしそうに車窓を眺めていた。彼らの車の後ろからは、ソンホと一緒にやってきたヤン(ヤン・イクチュン)という男性を乗せた協会の車が付いてきていた。彼は「事故や事件が起きないように」という理由でソンホについている見張りだった。

母は子どものころのソンホの大好物を食卓に用意し、みんなで乾杯をした。大好きな兄を迎えてうれしいリエ。しかし、ソンホはあまり食べなかった。

かぞくのくに
(C) 2011 Star Sands, Inc.


ソンホは、病院で検査を受けた。検査の結果は、悪性の疑いのある腫瘍だった。今だったら手術できるが、時間がかかるので、3ケ月では責任を持って引き受けられないと医師から告げられた。このまま放っておけば、腫瘍は大きくなりやがては生命にかかわると言う。

ある夜、ソンホはリエに話しかける。「指定されただれかに会って、話した内容を報告するという仕事をする気はあるか」それは工作員の仕事だと理解したリエは、突然言われたその内容に驚くが、尋ねる。「もし断ったらオッパ(兄)に迷惑がかかる? もし引き受けたら、オッパのお手柄になる?」関係ないと言われたリエは、はっきりと拒否する。さらに「上の人に、オッパと妹は相反する思想を持った敵だと、はっきり言って」と声を荒げる。

かぞくのくに
(C) 2011 Star Sands, Inc.


ソンホと一緒に来日した女性が、手術は成功したが、経過を見るために滞在期間が3ケ月では足りないということを聞いた父は、彼女と一緒に、ソンホの滞在期間を延長してもらうよう協会に働きかけようと考える。

しかし、ヤンからソンホに電話がかかる。それは「明後日、帰国せよ」という突然の命令だった。驚く母とリエを前にして、ソンホは「こんなの、よくあることなんだ」と言い、「従うしかないのだ」と下を向くしかなかった。

 

ふしぎな作品です。見ているときは、特殊の家族の話なのに、自分の家族に投影してこの家族を見ていました。また見た後は、時間がたっても、いろいろな場面が心に残って、エリ、ソンホ、父、母の表情が思い出されてきます。リエの兄を慕うまなざし、父に対する息子の思い、どうかかわっていいかとまどう両親。ことばが少ない分、彼らは、今何を感じ、どう思っているのだろうと、想像させられます。また、理不尽な北朝鮮のやり方に、とまどいと怒りを感じます。

国家、社会や他者から押しつけられる出来事によって、個人も、家族も、さまざまな情況に立たされます。そのとき、自分に対して、家族を守るために、どう感じ、どう行動するのか……。じっくり味わいながら見たい作品です。


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