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 サンタクロースをつかまえて

2012年11月

サンタクロースをつかまえて

  • 監督・撮影・編集:岩淵弘樹
  • プロデューサー・撮影・編集:山内大堂
  • 録音:辻井潔
  • サウンドデザイン: 山本タカアキ
  • 配給:東風

2012年 日本映画 1時間20分

  • 第25回東京国際映画祭 日本映画・ある視点部門正式出品作品

仙台市出身の岩淵弘樹監督は、震災後はじめてのクリスマスを迎える時期に、仙台に帰りました。仙台では、毎年、けやきの並木道をイルミネーションで飾る「光のページェント」を開催してきました。しかし、イルミネーションの主役である55万個のLED電球が、津波で流されてしまったのです。ところが、開催できないという状況を知った全国の人々からの支援があって、無事「光のページェント」を開催することができました。

まぶしい光を浴びて、開催を喜ぶ仙台の人々、監督の祖父の妹にあたるおばさん、おばさんが通うカトリック八木山教会のクリスマスミサとパーティー、監督のお母さん、幼い我が子のためにサンタクロースからのプレゼントを用意する友人、ライブをやっている友人などなど、監督の周囲にいる人たちの姿が、監督との会話とともに映し出されていきます。


サンタクロースをつかまえて
(C)ballooner


サンタクロースをつかまえて
(C)ballooner


今まであたりまえのように行ってきたクリスマスですが、「今年も祝おう」という思いは、震災前の思いとは全く違っていました。クリスマスを祝う意味、プレゼントを贈る意味、さらには信仰の意味、生きる意味を深めているのです。

新鮮なのは、監督のお母さんの姿です。荒浜の工場で働いていたお母さんが無事だとわかり安心した監督ですが、復興のために一助となればと、3月20日、仙台に向かいました。

家に着くと、お母さんはこたつに入っていました。「その後、どうだった」などとあいさつの言葉をかわしているとき、お母さんの携帯にメールが入ります。喜ぶお母さんの声。お母さんの働いている会社から、業務を再開するので出社してほしいとの連絡でした。「うれしい!」「うれしい!」と言ってメールの文面を繰り返し読むお母さん。震災後9日目での再開ですから、他の会社に比べれば早い方でしょう。再開の喜びはその会社だけではなく、社会全体を立て直していくことにつながっていることが理解できました。できるところからはじめる、活気を出す、その輪を動かそうとしていく地域の人々の願いを感じました。

会社からのメールの最後に書かれていた「一緒にがんばりましょう」という言葉を、お母さんは何度も繰り返していました。お母さんの喜びは、大きな災害から立ち上がっていくことへの希望の光のように思います。

1983年生まれの監督は、地元の大学を卒業した後、東京で生活することを夢見てバイト生活をし、23歳のときに、埼玉県本庄市へ来て派遣社員として働きます。その生活をハンディカメラで撮影して編集し、24歳のときに「遭難フリーター」という作品にしました。お金がなくなってきたので、職業訓練校に通いながら支援金がもらえるということで、ハローワークの職業訓練校でホームヘルパー2級の資格を取りました。厳しい勤務ですが、介護士としての生活をはじめました。

監督は、フリーター、派遣社員、「職がない」という、今の若者がぶち当たっている就職困難を体験してきました。撮影しながら、被写体にいろいろと問いかける監督の声や語りに頼りなさを感じたのですが、それは頼りないのではなく、上からの目線ではない、とらわれていない視点で、相手の心を開かせ、その状況をやわらかく受け止めていくやさしさにつながっているのかもしれません。

「子どものころ、サンタクロースを本当に信じていて、寝る前にドキドキして、朝起きたときにプレゼントを見つけてドキドキした」という監督の純粋な気持ちを感じる、被災地・仙台の心温まるクリスマスです。


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