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お薦めシネマ
約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯
2013年 2月
- 監督・脚本:齊藤潤一
- 音楽:本多俊之
- ナレーション:寺島しのぶ
- 出演:仲代達矢、樹木希林、天野鎮雄、山本太郎
- 配給:東海テレビ
2012年 日本映画 120分
司法シリーズ番組
東海テレビでは、年に数本、ドキュメンタリー番組を製作しています。しかし、一地方局のこと、どんなに心を込めて製作しても、テレビ放送の枠を出ることはできません。そこで、もっと多くの人に番組の内容を知ってもらおうと映画化を決めました。その働きの原点にあるのが、「名張ぶどう酒事件」です。2006年から2012年まで放送された9本のドキュメンタリーのうち、4本が名張ぶどう事件に関係したものです。2012年に放送した番組は、「名張ぶどう事件」のドラマとドキュメンタリーを組み合わせました。この番組を映画化したものが、「約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯」です。
50年におよぶ獄中生活
「名張ぶどう酒事件」は、冤罪の可能性の極めて高い事件です。奥西勝は、最高裁で死刑の宣告を受けました。獄中で半世紀を過ごしながらも、いまだに死刑は執行されていません。高齢になって獄中で亡くなれば、死刑を執行しなくてもいいというのでしょうか。裏の思惑がありそうです。
3畳ほどの狭い独房で一日を過ごします。毎朝、近づいてくる刑務官の足音に緊張します。「お呼びが来たのか……」。死刑執行は、その日の朝に告げられるからです。足音が通り過ぎると安堵して、その一日を過ごします。翌日の朝も、同じことの繰り返しです。日中は、袋貼りの作業をしています。運動不足は、週3回、独房についているベランダに出て体を動かし歩きます。夜は、朝を迎えるのを恐れながら、布団の中に入ります。
自白が決め手
事件は1961年に起きました。名張市の山間にある葛尾。18戸が集まって暮らしています。農業を営む35歳の奥西は、妻と13歳の息子、小学校入学を間近に控えた5歳の娘と、つつましく暮らしていました。3月28日、毎年集まっている村人の懇親会で、男性には日本酒、女性にはぶどう酒が出されました。奥西の妻も、ぶどう酒を飲みました。しばらくすると、ぶどう酒を飲んだ女性たちが次々に苦しみだしました。ぶどう酒を飲んだ15人のうち、5人が死亡しました。奥西の妻も、もがき苦しみながら亡くなりました。
重要参考人として連行された奥西は、6日後に逮捕されました。三角関係を清算したいと、妻と愛人を毒殺するために、ぶどう酒に農薬を入れたと自白したのです。何の物的証拠がない中、奥西の自白だけが逮捕の決め手となりました。
しかしその後奥西は、自白は強要されたものだと無罪を主張しはじめました。1964年の津地方裁判所では無罪、検察側の控訴で行われた1969年の名古屋高等裁判所では一審の無罪判決が棄却され、死刑が宣告されました。1972年の最高裁判所では、死刑が確定した。
((C) 東海テレビ放送
「あなたの力になりたい」
逮捕から26年目に、見知らぬ男が面会にきました。冤罪の可能性のある事件の救援活動をしている川村でした。彼は仲間とともに署名運動をはじめました。判決文を読んで理不尽だと思った弁護士も、奥西の弁護団に加わり、救出を決意しました。彼らの調査により、奥西の証言によって、村人たちの証言も一転二転していったことが明らかになっていきます。
2人の子どもは施設に預けられ家族はバラバラになりました。母のタツノだけが、「息子が人殺しなどするわけがない」と、面会に訪れました。
再審請求をしても、何度も何度も裏切られる人が、それでも、最後まで再審請求を信じようと、あきらめることなく挑んでいます。今や、27人になった弁護団もあきらめません。「今度は、壁の外で握手しましょう。約束ですよ」 奥西は、しぶとく、しぶとく生きることに決めました。「死んでたまるか、生きてやる」。
光る演技
若いときの奥西を山本太郎が、獄中で高齢になった奥西を仲代達矢が演じています。罪を犯した息子を持つ母を樹木希林が、他の作品とはまったく違った姿で演じています。存在感のある演技が、毎日死の恐怖を浴びている奥西と、息子の無罪を信じ孤独を生きる母親を際立たせている。
負けずに生きる奥西、いつか必ずと信じて次の策を練る弁護団、カメラを回し続ける東海テレビの放送マン、彼らの執念が実る日がきっと来るようにと、映画を見た者は祈ります。