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 舟を編む

2013年 4月

 

舟を編む

  • 監督:石井裕也
  • 原作:三浦しをん『舟を編む』(2011年 光文社)
  • 脚本:渡辺謙作
  • 音楽:渡邊崇
  • 出演:松田龍平、オダギリジョー、小林薫、加藤剛、
       宮崎あおい、伊佐山ひろ子
  • 配給:松竹、アスミック・エース

2013年 日本映画 2時間14分


2012年本屋大賞をとった、三浦しをん著『舟を編む』(光文社)の映画化です。出版物の中でも、10年単位の気の長い仕事となる「辞書作り」にかかわる人々に焦点を当てたものです。

主人公・馬締光也を演じるのは、映画やテレビドラマになった『まほろ駅前多田便利軒』で、ずうずうしい風来坊・行天(ぎょうてん)を演じた松田龍平です。今回は友達がいない小心者のまじめ人間を演じます。もともとこういう人だったのではないかと思うほどの、はまり役です。


物語


大手出版社の玄武書房。きれいなビルの横に、低い別棟がある。同じ会社とは思えないほど、古くて汚いこのビルには、社員からも所在を忘れられている「辞書編集部」が入っている。

ベテラン編集者で「辞書編集部」のリーダー・荒木(小林薫)、編集者の西岡(オダギリジョー)、契約社員の佐々木(伊佐山ひろ子)が、監修者の松本先生(加藤剛)を中心に、辞書『大渡海(だいとかい)』の出版に向け、作業を始めていた。

辞書を作るためにはいくつかの段階がある。まず、辞書に載せる言葉を集める「用例採集」。専用のカードをいつも持ち歩き、生活の中で使われている言葉をカードに書いて言葉を集めていく。『大渡海』の編集方針は「今を生きる辞書」。日本語の使用としては誤っている言葉でも、若者たちが生活の中で使っているのなら、積極的に集めていった。他の辞書や、雑誌、新聞、インターネットなど、生活の中からも言葉を集めていく。

集めたカードの中から、『大渡海』に載せる言葉を選ぶ「カード選別・見出し語選定」。選ばれた言葉に説明を付ける「語釈執筆」。内容が決まると、レイアウトが行われ、組版された紙面を印刷して、校正が数回行われる。この行程に10年、15年とかかる。言葉は生き物。『大渡海』が出版される前に、言葉は変化していくので、一連の作業をする一方で、改訂も行われていく。実に、気の遠くなる作業だ。

舟を編む
(C) 2013「舟を編む」製作委員会


1995年、松本の片腕として働いていた荒木が、妻の看病をするため退社することになった。松本は、「君のような編集者が、他にいるとは思えない」と力を落とした。自分のことで『大渡海』の編集が中止になってしまうのではと心配した荒木は、後継者探しを始めた。

営業部で働いている西岡の恋人・三好(池脇千鶴)が、辞書作りにふさわしい男性がいると情報をくれた。馬締光也(まじめ みつや・松田龍平)27歳。大学院で言語学を専攻したと知った荒木は、馬締に尋ねた。「『右』という言葉を説明できるか」。この問いかけをされた人は、たいてい、けげんな顔をして去っていった。しかし、馬締は真剣に考え始めた。ぶつぶつ言いながら「西を向いたとき、北にあたる方が右」と答えると、辞書を引き始めた。

こうして、馬締は「辞書編集部」に移動した。退社後、書店に寄った馬締は、持ちきらないほどの辞書を買い、下宿へと帰っていった。

舟を編む
(C) 2013「舟を編む」製作委員会


「早雲荘」と呼ばれた古い日本家屋の下宿に、間借り人は馬締だけだった。大家のタケ(渡辺美佐子)は、馬締を「みっちゃん」と呼んでかわいがっていた。馬締の部屋は本で埋まり、隣の空き部屋も、馬締の買った本で埋め尽くされていた。

退職した荒木からもらい受けた袖カバーをして、馬締は黙々と地味な作業に取り組んでいた。「言葉の海。それは果てしなく広い。人は辞書という舟で海を渡り、自分の気持ちを的確に表す言葉を探す」という松本の言葉に感銘を受けた馬締は、一生の仕事に出会った確信を得ていた。

ある満月の夜、馬締がかわいがっている猫・トラの鳴き声を聞き、物干し台に出ると、そこには、トラを抱いた若い女性(宮崎あおい)が立っていた。

舟を編む
(C) 2013「舟を編む」製作委員会


 

人々からバカにされる馬締のドジさがかわいく、彼の世界に接していくと、自分に素直に生きている馬締の姿がキラキラと輝いて見えました。馬締の生き方が、実は生きやすいのではないかと思ってしまいます。

何十万語という言葉を集め、その意味を探していく気の遠くなる地味な仕事を、黙々と果たしていく辞書作りの編集者を見ながら、言葉の大切さ、おもしろさが見えてきました。明日から、辞書を読むのが楽しみ・・・という人が何人も出てきそうな、影響力のある作品です。日本語の豊かさを改めて感じました。映画を見た後、『広辞苑』や『大辞林』など辞書を引きたくなってきました。この映画のように、苦労して時間をかけて書いた「語釈」を読むのが楽しくなりそうです。


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