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 標的の村

2013年 8月

標的の村

  • 監督・ナレーション:三上智恵
  • 音楽:上地正昭
  • 配給:東風

2013年 日本映画 1時間31分

  • 2012年テレメンタリー年間最優秀賞
  • 第18回平和協同ジャーナリスト基金奨励賞
  • 第4回座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル大賞
  • ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞
  • 平成25年民間放送連盟賞九州沖縄地区報道部門最優秀賞
  • 2013年日本ジャーナリスト会議JCJ賞
  • 山形国際ドキュメンタリー映画祭2013年アジア千波万波部門正式招待作品



「辺野古移転、反対!」と叫んで何年になるでしょう。最近では、「オスプレイ反対!!」と首相官邸の前で叫びますが、現実を分かっていませんでした。ニュース番組や新聞では伝わってこない、基地周辺の住民の不安、苦しみ、怒りが、この映画には溢れています。

そして、2013年8月5日、人々の不安は、またもや現実のものとなりました。訓練中の米軍ヘリコプターが森の中に墜落したのです。宜野座村の小学校や村役場のある住宅地まで、わずか2kmほどしか離れていません。墜落事故が起きたのは、キャンプハンセンの中ですが、空撮の映像を見ると、米軍基地といっても、そこは沖縄の豊かな緑の木々の中でした。

沖縄に占める米軍基地の図を見るとき、そこがどのような状態なのかまでは想像しませんでした。テレビに映し出されている映像を見ると、木々の間から火の手と黒い煙が上がっています。沖縄の地がもやされていると、痛みを感じました。そこは沖縄の土地です。日本の警察や消防は、自分たちの国土でありながら、基地の中に入り、消火活動をすることができません。原因を調べることができません。

この悔しさの何万倍、何百倍もの不安、怒りを、沖縄の人々は何十年と、抱いてきました。

映画「標的の村」では、毎日、この現実にさらされている住民たちの戦いを、2007年から2012年の暮れまで追いました。

沖縄本島北部に位置する、国頭郡東村高江(くにがみぐん ひがしそん たかえ)。豊かな自然に囲まれた人口160人ほどの村です。しかし彼らの家々は、米軍基地の真ん中に位置しています。総面積7,800haという国内最大の米軍専用施設に囲まれているのです。

空には軍用ヘリコプターが飛び、演習のときは、基地との境にフェンスがないため、木々の間から、突然、戦闘訓練の米兵が飛び出してくることもあります。まるで、戦場の中に暮らしているような恐怖です。

この村に暮らす安次嶺(あじみね)現達さん夫婦は、森の魅力に惚れて、この地にやってきました。夫婦は、現達さんが畑で作る野菜と妻の雪音さん手作りの窯焼きパンを出すカフェを経営しています。二人には6人の子どもがおり、自然の中でのびのびと育っています。

標的の村


2007年、米軍基地にヘリパッドが建設されるということを聞き、高江区民は反対運動を起こしました。那覇防衛局に抗議しても、「米軍の運用に関しては、日本側は関知できない」と突き放すばかりです。何の説明もなされないまま、工事の通告がなされました。

7月2日、住民たちは工事関係車両を基地内に入れないために、座り込みの抗議を始めました。現達さんたちの悲痛な訴えに、工事関係者は退散しましたが、いつやってくるか分からない工事車両への毎日の座り込みに、住民たちの生活は費やされました。

標的の村


そしてある日、驚くべきことが起きました。現場での座り込みが「通行妨害」になるとして、国が仮処分を行い、住民15人が裁判所に呼び出されたのです。現達さんの家では、夫婦の他に、わずか7歳の長女の海月ちゃんまでも訴えられました。海月ちゃんは、当日、座り込みの現場には行っていませんでした。

その後の裁判の期間中も、米軍のヘリコプターは、村の上空を飛び続けました。現達さんは言います。「かつてのベトナム村と一緒だ」と。

1960年代のベトナム戦争のとき、高江区の人々は、米軍のゲリラ戦訓練のため、南ベトナムの人々に見立てられて、標的とされたのです。

2012年に入り、現達さんたちの耳に、オスプレイ配備のニュースが入ってきます。

2012年9月9日、沖縄県民大会が開かれました。

2012年9月27日、普天間基地のメインゲート前にはオスプレイ配備を止めたい住民が押し寄せ座り込みを始めました。30日夜、車を停めて封鎖する市民に対し、沖縄県警の機動隊が出動しました。同じ国民でありながら、住民と機動隊、県警との壮絶な戦いを行ったのです。

フェンスの向こうでは、米兵がこの騒動を眺めていました。

 

沖縄の米軍基地周辺の住民と米軍との間に、このような歴史があるとは知りませんでした。米軍というよりは日本政府かもしれません。沖縄のことをニュースで見るとき、実際に生活している人々の姿をしっかりと見つめないといけないと思いました。


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