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 天 心

2013年10月

天心

  • 監督・脚本:松村克弥
  • 脚本:我妻正義
  • 音楽:中崎英也
  • 主題歌:石井竜也
  • 題字:川又南岳
  • 出演:竹中直人、平山宏行、中村獅童、木下ほうか、
    橋本一郎、温水洋一、石黒賢
  • 配給:マジックアワー

2013年 日本映画 2時間2分


岡倉天心生誕150年、没後100年記念して製作された作品です。明治が到来し、すべてが西洋化されていく中で、日本の美を追い求めてきた岡倉天心と弟子たちの物語です。生活だけでなく、精神的にも、暗く、辛い極貧の時期を越えた者だけに見えるものを追い求める若き日本画家たち。彼らの土台の上に、今の日本の日本画、西洋画があることを感じます。彼らの学舎は、現代の東京芸術大学に発展し、あらゆる分野の芸術家を輩出しています。


物語


第一回の文化勲章を受章した横山大観(中村獅童)のもとへ、新聞記者(石黒賢)が取材に訪れた。彼は一枚の写真を大観に見せた。そこには、茨城県五浦でともに筆をとって学んだ若き大観たち4人が写っていた。「私にとって、悪魔とも言える苦難の時代だった」と語る大観に、記者は、そのときのことを語って欲しい、「岡倉天心の真の姿を」と願う。

天心
(C) 2013「天心」製作委員会


明治15年。政府は廃仏毀釈を命じ、寺は焼かれ、仏像や壁画、ふすま絵が灰となっていった。この中で、日本の伝統美術や日本画は、衰退の一途を辿っていた。これを憂いた日本文化を愛する東京大学の教授アーネスト・フェノロサは日本美術を復興させようと、文部賞学務局の岡倉覚三(後の天心)を伴い、国中を歩いていた。フェノロサは貧しさの中にいた狩野派の狩野芳崖(温水洋一)を訪れ、神足(しんそく)と呼ばれた彼の才能に驚く。フェノロサは芳崖を援助し、西洋画を越える日本画を導きだすよう助言し、ついに「悲母観音」という名画を生み出させる。

明治35年。東京美術学校の校長となった岡倉天心(竹中直人)は、芳崖の「悲母観音」を前に、初代学生たちに講義をしていた。そこには、後の横山大観となる横山秀麿(中村獅童)、下村観山となる下村晴三郎(木下ほうか)、木村武山(橋本一郎)、後の菱田春草となる菱田三男治(平山宏行)らが席を並べ描いていた。

しかし、文部大臣九鬼男爵の妻との不倫が表沙汰になり、校長の地位を追われた天心は、茨城の五浦(いづら)海岸に新しい美の創造の場を置いた。弟子たちも家族とともに移り住むが、新聞は彼らを「都落ち」と称した。天心は、この地に世界を相手にしたユートピアを実現しようと日本美術院を移転した。

次第に4人に差が出ていく。天心から絵をほめられた下村と木村には絵画の依頼が来るようになったが、天心の志を継いでいるにもかかわらず、指導をしてもらえない横山と菱田は、食べるにも困る生活となった。五浦海岸の断崖に激しく打ち寄せる波がしぶきをあげるように、菱田には厳しい生活が待っていた。

 

才能がありながらも日の目を見ることができず苦しんでいる夫を、信じ励まし支える春草の妻、文部大臣として体裁を保つため離婚してもらえず精神を病む九鬼男爵の妻、奔放な夫を支え「ママさん」と呼ばれる天心の妻。映画「天心」は、日本美術史の映画であるとともに、夫婦のドラマでもあります。芸術を発展させるために、さまざまな立場の人が支え、新しい境地である霧の向こうにあるものを描くために、日々精進する人々。日本画が持つ、日本人の宗教心、奥深さへと招く作品です。


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