お薦めシネマ
皇帝と伯爵
2013年12月
LINES OF WELLINGTON
- 監督:バレリア・サルミエント
- 脚本:カルロス・サボーガ
- 音楽:ホルヘ・アリアガータ
- 出演:ジョン・マルコヴィッチ、ヌヌ・ロプス、
ジュアン・アライシュ、カトリーヌ・ドヌーヴ、
イザベル・ユペール - 配給:アルシネテラン
2012年 フランス・ポルトガル映画 2時間32分
- 第26回東京国際映画祭 日本映画スプラッシュ部門正式出品作品
タイトルの皇帝とはナポレオンのことであり、伯爵とはイギリスの知将と言われるウェリントン将軍を指しています。タイトルから二人の争いを描いたと分かりますが、たしかにポルトガルの地での英国とポルトガル同盟軍と、ヨーロッパ征服をもくろんでいるナポレオン率いるフランス軍との戦いの場面ですが、否応なしに戦いに巻き込まれていく人々を、あらゆる角度から描いている、壮大な人間ドラマです。
物語
1810年9月27日、フランス軍は、プサコの戦いに勝利し、引き下がるイギリスとポルトガル同盟軍を追いかけ、アルコバ山頂に近づこうとしていた。しかし、これは、フランス軍を懐に引き寄せようというウェリントン将軍(ジョン・マルコヴィッチ)の作戦だった。尾根に出たフランス軍の前には、イギリス軍が待ち構えていた。
(C) ALFAMA FILMS / FRANCE 3 CINEMA 2012
この戦いで勝利したにもかかわらず、イギリス軍は撤退をはじめた。それは、ウェリントン将軍が密かに築いているトレスの砦にフランス軍を誘い込むためだった。圧倒的な数のフランス軍と戦うために、地理を味方に付けようとしたのだ。砦は80kmに渡って建築された防衛の要塞だった。
1811年4月、この砦を前にして、フランス軍は撤退していった。英国軍の勝利である。後には、傷ついた人々の心と、不毛となった国土だけが残った。
(C) ALFAMA FILMS / FRANCE 3 CINEMA 2012
自分が手渡した水筒の水を飲んだがために頭を打たれた同僚を失った軍曹。亡くなった兵士の衣服から金目の物を奪う農夫たち。フランス軍との戦いで夫を失った新妻、負傷したため置き去りにされた傷病兵。町を追われ難民となって旅する人々。難民の間でのけ者にされている貧しい孤児。病気の父親と幼い弟と共に英国に帰るために馬車に揺られながら、お金持ちと結婚したいと思っている令嬢。「戦いの後の無残な兵士たちの姿は描かないように」と画家に指示し自分と戦地を描かせる将軍。廃墟となった町で屋敷に残って優雅に食事をする商人。傷を負って逃げてきた兵士を手篤く看病する一人暮らしの女性。村を襲った兵士に子どもを殺されレイプされた女性。散り散りになった兵士たちを襲うならず者たちと、彼らの中で生き延びる女。マリアの像を担いで兵士を襲う聖職者の―ダー。軍とともに異動する娼婦。次々に運び込まれる疾病者たちを受け入れ手当する病院の修道女。戦争で家族と土地を奪われ、さらに砦を築くためにかり出される農民。
(C) ALFAMA FILMS / FRANCE 3 CINEMA 2012
英国とポルトガル連合軍の、ポルトガルのプサコからリスボンに向かう撤退の旅の中で起きているさまざまな人間模様を描くことによって、戦争をする意味は何なのかを問いかけています。
「皇帝と将軍」は、撮影を目前にして、2011年に亡くなったチリの映画監督・脚本家であるラウル・ルイス(1941生)の遺志を継ぎ、彼の生涯のパートナーであるバレリア・サルミエント(1948生)がメガホンを取りました。ラウル・ルイスの作品は、日本での公開数はとても少ないのですが、サルミエント監督は、ラウル・ルイス監督のやり方を大切にしながらも、彼女なりの視点を加えました。「戦争において苦しむのは女性たちなんだということを伝えたかった」と語っています。