お薦めシネマ
悪童日記
2014年10月
- 監督:ヤーノシュ・サース
- 脚本:アンドラーシュ・セーケル、ヤーノシュ・サース
- 原作:アゴタ・クリストフ
- 音楽:ヨハン・ヨハンソン
- 出演:アンドラーシュ・ギーマーント、
ラースロー・ギーマーント、ピロシュカ・モルナール、
ウルリク・トムセン、ウルリッヒ・マテス、
ギョングベール・ボグナル - 配給:アルバトロス・フィルム
2013年 ドイツ・ハンガリー映画 111分
- カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭グランプリ
- アカデミー賞外国映画賞ハンガリー代表
幼少期を、第2次世界大戦末期のナチス支配下のハンガリーで過ごした女性亡命作家アゴタ・クリストフが、52歳のときに出版した処女作「悪童日記」の映画化です。1986年に出版されると、瞬く間に世界20か国で翻訳され、数々の賞を受賞しました。現在では、40か国語に翻訳されています。
簡潔な短い文で書かれた『悪童日記』は、感情は表現されていず事実だけが並べられているので、映画化は難しいとされてきました。ヤーノシュ・サース監督もシンプルな方法で物語っていくことに挑戦しました。
物語
1944年8月14日、第2次世界大戦下のハンガリー。大きな町に住む双子の少年(アンドラーシュ・ギーマーント、ラースロー・ギーマーント)は、戦争が激しくなってきたので疎開することになった。「双子は目立つから引き離そう」と父親(ウルリッヒ・マテス)は言ったが、母親(ギョングベール・ボグナル)が反対し、母方の祖母のいる小さな村へ行くことになった。父親は、二人にノートを渡した。「日記を書きなさい」。母親は言った。「何があっても、勉強を続けてね」。
(C)2013 INTUIT PICTURES - HUNNIA FILMSTUDIO -
AMOUR FOU VIENNA - DOLCE VITA FILMS
列車に揺られ、小さな村に来た。粗末な家。20年ぶりに帰ってきた娘だが、祖母(ピロシュカ・モルナール)は、恐い顔をして娘に怒っている。二人はどなりあっている。祖母は、村の人々から「魔女」と呼ばれていた。
二人を置いて、母親は行ってしまった。翌朝から、「働かないと食べさせない」と、祖母は二人を起こす。薪割り、水汲みをさせられる。しかしお皿に出されたのは薄いスープだけだ。「牝犬の子ども!」「クソガキ!」と言われながら、顔や頭をたたかれる。二人は決心する。目の前の出来事だけを日記に書いていこうと。
(C)2013 INTUIT PICTURES - HUNNIA FILMSTUDIO -
AMOUR FOU VIENNA - DOLCE VITA FILMS
二人は身体を鍛える訓練を始める。痛みに慣れること、寒さや痛みに耐えるため、互いの頭や身体をたたきあった。
二人は母親からの手紙を待っていた。一週間が過ぎ、一ヶ月が過ぎ、しかし、手紙は来なかった。母親を忘れなければ。
万引きをしながら暮らす隣の貧しい母娘、雪の中で死んでいった逃亡兵士、離れに週末にやってくる将校(ウルリク・トムセン)、母親から届いた荷物を二人に隠していた祖母、二人をお風呂に入れてくれたがユダヤ人たちを売る女性。いろいろな不条理な出来事に出会うたびに、二人は、心身ともにたくましく賢くなっていく。精神を鍛える訓練、空腹にも耐える訓練、残酷さに慣れる訓練をして、自らを鍛えていく。そして、最後の訓練がやってくる。
ヤーノシュ・サース監督は、この本を読んで、子どもたちがとのようにして生きることを学んでいったのか、また戦争が、人間の性格をどのように変えていくのか、この無垢な双子の子どもたちから、何を作り出したのかに強くひかれた」と言っています。また、双子を演じる双子を探しだすのに、苦労したと言います。探しはじめてから半年後に出会ったアンドラーシュとラースローは、ハンガリーの貧しい村の出身で、過酷な状況の下で暮らしていたので、厳しい肉体労働や貧しい生活は、彼らのほうがよく知っていました。この二人に出会えたことは奇跡だったと語っています。
過酷な世界に放り出された双子の男の子は、「二人でいないと何もできない、二人で一人だ」とうほど一つになって、戦争、貧しさ、大人たちの暴力の中で、生きる術を学んでいきます。最初から最後まで、緊張感が続き、吸い付けられたように見入ってしまいます。迫力ある二人の目が、この映画を芯のあるものにしています。