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禁じられた歌声

2016年 1月

TIMBUKTU

禁じられた歌声

  • 監督・脚本:アブデラマン・シサコ
  • 出演:イブラヒム・アメド・アカ・ピノ、トゥルゥ・キキ、ケトゥリ・ノエル
  • 配給:RESPECT(レスペ)
  • 配給協力:太秦

2014年 フランス・モーリタニア映画 1時間37分

  • 第40回セザール賞最優秀作品賞など7部門独占受賞
  • 第87回アカデミー賞外国語映画賞ノミネート


今、世界の国々が、過激派組織IS=イスラミックステートに一様に恐れをいただいている中で、この映画はとても興味深いと思います。声高に指摘しているのではなく、人々が日々生活している場、その中にある美しい自然、民族が培ってきた伝統と文化が、武器による支配によって一瞬に破壊されてしまうもろさと切なさ。人間っていったい何なのか、考えさせられます。

1961年モーリタニアに生まれ、小さいころはマリに住み、モスクワ映画学院で学び、今はフランスを拠点にして世界で活躍している アブデラマン・シサコ監督の作品です。2012年に、実際に起きたイスラム過激派による若い事実婚カップルに対して行われた投石公開処刑に触発された監督は、壮大な砂の世界で営まれる人々の生活をとおして、多くを語らずに強烈なメッセージをわたしたちに突きつけています。


物語

アフリカのマリ共和国。世界遺産になっているティンブクトゥの街の近くにある砂漠の中で、12歳のトヤは、父キダン(イブラヒム・アメド・アカ・ピノ)、母サティマ(トゥルゥ・キキ)と暮らしていた。家族は牛を飼い生計をたてており、牛飼いの少年イサンが牛の面倒を見ていた。彼らは、つつましくも穏やかに暮らしていた。トヤは、父の奏でるギターが大好きだ。

 禁じられた歌声
©2014 Les Films du Worso ©Dune Vision


しかし、遺跡が破壊され、街がイスラム過激派ジハーディスト(聖戦戦士)に占拠された。兵士たちはメガホンをとって街中を巡って叫んだ。「ここはイスラムの国だ。音楽は禁止。女は靴下と手袋を着用すること。サッカーは禁止、ムチ打ち20回!」。手袋をはめていては魚を扱えないと訴える魚売りの女性は捕らえられた。夜、神をたたえた民族の歌を口ずさんでいた若者たちは、ジハーディストたちに武器を向けられた。少年たちは、見えないサッカーボールを蹴って砂煙をあげて試合をしていた。

そんな中、住民からは奇人扱いされていた女性ザブー(ケトゥリ・ノエル)は、ジハーディストたちに公然と抵抗していた。

 禁じられた歌声
©2014 Les Films du Worso ©Dune Vision


ある日、イサンのかわいがっていた牛が、離れて川に向かっていった。川にしかけた網を邪魔したという理由で、牛は、イサンの目の前で、漁師から殺された。「話し合えばいい。武器はいらない」というサティマのことばを聞きながら、キダンは漁師のもとに向かう。しかし漁師ともみあいになり……。

 

武器を手にやってきた者たちが持っている法に、従わなければならない不条理を思います。武力の前に、人々は抵抗することができません。大切な遺産が一瞬にして破壊され、民族の中で歌い継がれてきた音楽が禁止され、生活が支配されます。歌が禁止されるということは、歌だけに留まらず、自分たちの信仰、伝統、遺産、風習、習慣、生活のすべてが奪われる、つまり、人間としての尊厳を奪われることです。どのようにして、それを取り戻すことができるのでしょうか? ティンブクトゥの砂と水の、叙情詩のように美しい景色が、より一層、その問いを大きくします。

父キダンを演じるイブラヒム・アメド・アカ・ピノはトゥアレグ族の音楽グループのミュージシャンで、母サティマ役のトゥルゥ・キキも、別のトゥアレグ音楽グループのボーカルです。二人の奥深いまなざしと語り口調、ゆったりとした雰囲気がステキです。映画の中で歌われる民族の歌も、哀愁があり意味深い内容です。アフリカの奥深さを感じます。



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