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お薦めシネマ
ラサへの歩き方~祈りの2400km
2016年 7月
PATHS OF THE SOUL
- 監督・脚本:チャン・ヤン
- 撮影:グオ・ダーミン
- 編集:ウェイ・ロー
- 音声:チャオ・ナン / ヤン・ジァン
- 出演:ヤンペル、ニマ、ツェワン、ツェリン、セパ
- 配給:ムヴィオラ
2015年 中国映画 1時間55分
- トロント国際映画祭正式出品
- 釜山国際映画祭正式出品
- ロッテルダム国際映画祭正式出品
祈りには、何日もかけて歩くという祈りがあります。巡礼と呼ばれるもので、日本では四国のお遍路、スペインのサンチアゴ・デ・コンポステーラ、そしてチベットの「ラサへの道」。本作品は、3家族11人が一年をかけて、聖地ラサまでの祈りの日々を追ったものです。しかし、「ラサへの歩き方~2400km」は、巡礼する人々を追ったというドキュメンタリーではありません。「こころの湯」(1999)、「胡同のひまわり」(2005)「グォさんの仮装大賞」(2012)で、人間のやさしさを静かに表現し数々の賞を受賞した、中国北京生まれのチャン・ヤン監督は、チベットの巡礼者たちを見て、彼らの動機を理解したいと、巡礼という場を設定しました。巡礼に参加したいという人を募り、ドキュメンタリーの手法で、その深いところに迫るという新しい可能性に挑戦しました。
チベットの人々の、聖地へ向かう祈りの道は、身体で祈る「五体投地」という方法です。「手板」と呼ばれる下駄のようなものをはめた両手を合わせて祈り、皮の前掛けを付けた身体を前に投げ出してうつ伏せになって額を地につけ、そのまま頭を上げて手板をはめた手を合わせて祈り、起き上がって祈りを唱えながら数歩進み、また身体を投げ出します。こうして一年をかけて、村からラサへ1200km、ラサからカイラス山へ1200kmを祈っていくのです。このような五体投地の祈りは、一日に10kmほどしか進みません。巡礼の一行は3家族11人で、先頭には道先案内人のような、まとめ役のような人が祈りの道具をクルクル回しながら、巡礼をしていることを知らせる幟を立てた荷車と先頭を進みます。幌を付けた荷車の中には、宿泊のためのテントと布団、敷物、食料など、巡礼に必要なものが乗っています。
チベット自治区を横切るような、ヒマラヤ山脈のふもとを巡礼の道の所々には、巡礼者たちがテントを張れるように広場のような場所が作られています。予定のところまで五体投地の祈りを進めてきた彼らは、リーダの一言で、その日の祈りを終え、広場にテントを張って安心できる空間を確保し、疲れた身体を休めます。
1年の長い日々の間には、いろいろなことが起こります。思いもかけない出来事に影響されながらも、なんとかして巡礼の歩み続けていきます。テントの中での彼らの暮らし、祈り、食事など、チャン・ヤン監督はチベットの人々の生活をていねいに映していきます。そこから、信仰と祈り、家族への思い、子どもたちへの教育、他者とのかかわり、共同体作りなどから、静かで奥の深いところにあるやさしい精神が見えてきます。なんと奥ゆかしい人々でしょう。
2400kmの道程を、身体を投げ出して進むという彼らの祈りの姿に同伴しながら、たくさんの豊かな思いをいただいてください。