お薦めシネマ
古 都
2016年12月
- 監督・脚本:Yuki Saito
- 原作:川端康成
- 脚本:眞武泰徳、梶本惠美
- 題字:小林芙蓉
- エンディング曲:新山詩織
- 出演:松雪泰子、橋本愛、成海璃子、伊原剛志、奥田瑛二
- 配給:DLE
2016年 日本映画 1時間57分
- 文部科学省特別選定作品
- 第8回ヒストリカ国際映画祭特別招待作品
川端康成の小説で有名な「古都」。歴史ある文化と、名所や美しい自然の京都を舞台に、双子の姉妹とは知らずに北山と京都の町中で育った千恵子と苗子の出会いと別れを描いた物語で、舞台、映画、ドラマ化されました。川端康成は、戦後の急速に発展する近代化の道を歩む日本を憂い、古い土地で代々伝わる家業を守る暮らしの中で、二人の少女の静かさと清らかさを表現しながら、日本文化の大切さを訴えようとしたと言われています。今回の「古都」は、別れた千恵子と苗子の20数年後の設定です。
物語
京都・室町で、先祖からの呉服店を受け継いでいる佐田千恵子(松雪泰子)は、朝起きると店先に水を撒き、夫の竜助(伊原剛志)にお茶を入れ、仏壇の前で祈って、毎日を始めている。千恵子が住んでいる地域には伝統的な町屋が残っているが、高いビルが建ち、昔の家並みが消えつつある。西陣でも機織りの音は聞こえなくなり、家業を閉じる人も多くさびしい限りである。
大学生の一人娘の舞(橋本愛)は、就活の真っ最中である。友人からは、「就職試験に失敗しても、最後は家業を継ぐのでしょ」と言われていた。舞は、実は何をしたいのか分からないでいた。面接試験で「この会社で何を成し遂げたいのか?」と問われても、何も答えることができなかった。呉服店の経営はうまくいっておらず、千恵子は外国人観光客相手の町屋ツアーで着付けをしたり、竜助の実家の手伝いをしたりしながら、舞に家を継いでもらおうと、細々と店を守っていた。
(C) 川端康成記念會/古都プロジェクト
千恵子は、舞の姿を見ながら、同じ年のころの自分を思い出していた。当時の千恵子にとって、両親が喜ぶことを大切にし、店を継ぐことは当然のことだった。それがこの町に生まれ生きる者の宿命だと思っていた。それは、妹の苗子(松雪泰子・二役)と出会ったころのことだった。
姉の千恵子との一晩の出会いから別れて、北山で暮らしている中田苗子は、変わらず北山杉を磨く仕事に精を出していた。パリで絵の勉強をしている苗子の娘・結衣(成海璃子)は、描きたいものが見つからず、「もう何も描けない」と自分の絵に自信をなくしていた。村の人々は、結衣の才能をほめ留学を誇りに思っていると、苗子に出会うたびに口にしていた。
(C) 川端康成記念會/古都プロジェクト
内定の通知を受けたが、それが千恵子の根回しの結果だと知った舞は、祖父(奥田瑛二)のもとを訪れた。家を継ぐとはどういうことか、家を守るとは何なのかと問うていた舞に、祖父は「無理に継がなくてもよいのでは」と答えた。そんな舞に、書道の先生から、パリで書の個展を開くので手伝ってもらえないかと、パリ行の話が持ち上がった。
伝統の町にある祖先からの店を目の前にして、何をしたらよいのかと思い悩む舞。自分のしたいことのために道を歩んでいる留学先で自信を失い、投げだそうとしている結衣。自分もあのとき悩んだという千恵子と苗子の娘への思い。「どう生きたらいいのか…」だれもが真剣に悩む姿は若いときだけのものでなく、人生のどの時期においても問いかけられる大切なテーマです。