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眠る村

2019年 2月

SLEEPING VILLAGE

 眠る村

  • 監督:齊藤潤一、鎌田麗香
  • ナレーション:仲代達矢
  • 音楽:本多俊之
  • 題字:山本史鳳
  • 配給:東海テレビ放送
  • 配給協力:東風

2018年 日本映画 96分

  • 第66回菊池寛賞
  • 2017年日本民間放送連盟賞〈特別表彰部門/放送と公共性〉

1961年3月、三重県と奈良県にまたがる小さな村「葛尾(くずお)」で、殺人事件が起きた。その夜、村人たちは互助会の懇親会で公民館に集まり、男性は日本酒を女性はぶどう酒を飲んだ。そのぶどう酒を飲んだ女性たちが次々と苦しみだし、5人が命を落とした。ぶどう酒には農薬が混入されていた。

この事件で妻を亡くした奥西勝が、犯人として逮捕された。警察からの厳しい取り調べを受けた奥西は、妻と愛人との三角関係を清算するためにぶどう酒に毒を入れたと自白した。しかし1964年12月に開かれた一審の初公判で、奥西は自白を一転させて無罪を主張した。自白は警察官から強要されたものだと訴えた。一審では、証拠不十分で無罪となったが、1969年控訴審となる二審では、死刑判決が出た。1972年、最高裁は上告を棄却し、奥西の死刑は確定した。

 眠る村
(c) 東海テレビ放送


その後奥西は、獄中から無実を主張する再審請求を出し続けた。しかし、請求しては棄却され、また請求しては棄却されの繰り返しで、その数は、9回におよんだ。第9次の再審請求の最中、2015年10月、奥西は八王子医療刑務所で亡くなった。事件当時35歳だった奥西は、89歳になっていた。無実を信じて刑務所に通い続け、奥西を支えた母・タツノさんも亡くなり、その意志は奥西の妹・岡美代子さんに引き継がれた。兄が逮捕されてから、隠れるようにして暮らしてきた美代子さんだが、支援者たちとともに、講演会などを行い兄の無実を訴え続けている。その美代子さんも、88歳の高齢となった。

 眠る村
(c) 東海テレビ放送


第2審の死刑判決に疑問を持った東海テレビのディレクターは、1978年に取材を開始し、2018年の「眠る村~名張毒ぶどう酒事件57年目の真実~」を放送するまで、8回に渡ってこの事件を取り上げてきた。ディレクターも3代におよび、放送局をあげての長期取材となった。2012年に、事件のあらましと、無実を訴えて再審請求をし続ける奥西とその母を追ったドキュメンタリーと仲代達矢、樹木希林が演じる再現ドラマで構成された番組「約束 名張毒ぶどう酒事件死刑囚の生涯」は、翌年劇場映画として公開された。今回公開される「眠る村」は、2018年に放送された番組の劇場版で、事件のあった葛尾村の人々に焦点をあてている。

事件の状況から見て、犯人はこの村の中にいると思われる。この村から、だれかを出さなくてはいけなかった。村人たちの証言もは、二転三転した。奥西が無実を訴えても、一度決まった判決をくつがえすほどの財力も、学力も、村にはなかった。あのときから、葛尾には力が無くなったと言う。事件当時の村人たちも亡くなり、高齢となって一様に口をふさぐ。弁護団が新しい証拠を提出して再審請求するが、裁判所はそれを調べようともしない。

2017年12月、第10次の再審請求が棄却された。異議申し立てを行い、この事件は57年が過ぎた今も審理中である。美代子さんは言う。「裁判長は、私が死ぬのを待っている。」

一度決まった判決をくつがえそうとしない裁判所。犯人が出たのだから、もうこの事件はこのまま終わってほしいと願う村の人々。多くの謎が隠されているにもかかわらず解明されない「名張毒ぶどう酒事件」である。事件が明らかにされないことで、一人の人生が、そしてその家族の生涯が葬られてしまう不条理があってはならないと訴えるディレクターたちの思いが伝わってきた。


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