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一粒の麦 荻野吟子の生涯

2019年10月

 一粒の麦

  • 監督:山田火砂子
  • 脚本:重森孝子・来咲一洋、山田火砂子
  • 撮影監督:髙閒賢治
  • 音楽:渋谷毅
  • 出演:若村麻由美、山本耕史、賀来千香子、佐野史郎
  • 製作・配給:株式会社現代ぷろだくしょん

2019年 日本映画 110分


2019年9月7日、なかのZERO小ホールでおこなわれた映画の試写会に入りきれない人が、ホールの入口に溢れました。主催者の思いをはるかに越えて多くの人が詰めかけたこの映画は、87歳を迎え、杖をつきながらも、なお活力に満ちている山田火砂子監督の最新作「一粒の麦 荻原吟子の生涯」です。女性が職業に就くことが考えられたかった時代、男性社会である医師の中で、女性たちが安心して診察できるようにと、苦労して近代日本で初めての女医となった荻野吟子の姿に、山田火砂子監督は、ご自分の苦労した人生を重ねたのかもしれません。

主人公を演じるのは、若村麻由美さん。娘時代から60代までをひとりの人が演じてほしいという山田監督の思いに応えて、若村麻由美さんは、次々とやってくる壁に立ち向かっていく吟子の思いを、凛とした美しい姿で演じました。賀来千香子、山本耕史、佐野史郎、柄本明、渡邊梓など、ベテラン俳優が山田監督の下に集まり、脇を固めます。

 一粒の麦
試写会での舞台挨拶をする若村麻由美さん(左)と山田火砂子監督(中央)


物語

1851年(嘉永4年)、荻野吟子(若村麻由美)は、現在の埼玉県熊谷市に村の名主の5女として生まれた。勉強が好きで聡明な吟子だったが、女に学問はいらないと、16歳で隣村の名主の長男に嫁ぐ。しかし夫から性病をうつされ、苦しい病状となる、それが原因で子どもを産めない体となり、実家に戻る。このとき、男性医師による診察に屈辱的な思いをした吟子は、女性が安心して診察を受けることができるようにと女医になることを心に決める。しかし、当時、女性に医師免許を与える制度がないという大きな壁にぶつかる。途方にくれる吟子を後押しするのは、友人の松本荻江(賀来千香子)だった。荻江は、これからは新しい時代が来る、女性が活躍するために必ず役に立つから学問を続けるようにと励まし、吟子はその年、女性のために開設された東京女子師範学校の一期生として入学する。


 一粒の麦
(C) 現代ぷろだくしょん


東京女子師範学校を首席で卒業した吟子は、私立の医学校に入る。女性の姿をしないようにとの条件を出され、吟子は袴をはき帽子をかぶった男性の格好で学校に通う。女性用のトイレもない中で、男子学生から「女性が来るところではない」と目の敵にされ、バカにされながらも卒業する。しかし、医術開業試験願書を東京府に出すが、女性の前例がないからと却下される、やっとの思いで医師免許を取得し、産婦人科医院を開業する。白衣に身を包んだ吟子の医院には、身を隠すように暮らす女性たちも来院するようになったが、一方で「女性の分際で」とヤクザに押しかけられたりもする。やがて吟子のもとには、女性解放運動の女性たちや、親を亡くした子どもたちが集まるようになる。


 一粒の麦
(C) 現代ぷろだくしょん


多くの女性たちから頼りにされる存在となった吟子だが、同志社の学生でキリスト教の信徒として吟子と思いを同じくする13歳年下の青年・志方之善(山本耕史)と恋に落ち、一緒に暮らすようになり再婚する。しかし志方は、キリスト教の理想郷を建設するために北海道へと向かう。

 

現在、日本における女性医師の数は、7万人に近づいているそうですが、荻野吟子が生きた明治時代は、女性が医師になることは想像できないことでした。そんな中で、苦しむ女性たちのためにと志を立てた吟子のまっすぐな思いは、わたしたちに勇気を与えてくれます。

キリスト教精神に生き、孤児たちのために生きた石井を描いた「石井のおとうさん、ありがとう」、知的障害児のために福祉施設・滝乃川学園を立ち上げた石井筆子を描いた「筆子、その愛」、貧しい人のために働いたキリスト教社会運動家・加賀豊彦を描いた「死線を越えて 加賀豊彦物語」など、キリスト教精神に動かされて人々のために人生をささげた人々を描いてきた山田火砂子監督に、隠されている日本の歴史を知るための新しい作品を期待します。


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