お薦めシネマ
精神 0
2020年 4月
ZERO
- 監督・製作・撮影・編集:想田和弘
- キャスト:山本昌知、山本芳子
- 配給:東風
2020年 日本映画 128分
- 第70回ベルリン国際映画祭エキュメニカル審査員賞受賞
診察の回転数を早くしようと、マニュアル化した先生が多い。ゆっくりと話を聞いてくれる先生がいない。「強い看護師が来て押さえつける。その間にクスリを打たれたら、もうクターっとなってしまって、何も言えなくなってしまう。」・・・そんな不安をこぼす患者さんがいる。精神科医の山本昌知先生はじっくりと話を聞き、患者さんたちの信頼度が高かい。しかし、82歳になって突然の引退を告げた。
ベルリン国際映画祭をはじめ世界で絶賛された映画『精神』を撮影した想田和弘監督は、その作品の主人公である山本医師に、ふたたびカメラを向けた。
引退を前にした山本先生が、最後の診察となる患者さんたちとのやりとりをカメラで追った。「先生が引退した後は、どうしたらいいのか」「先生に診てもらえるなら、どこへでも行きます」「だいぶよくなった。先生に、もう少し見守ってほしい。」みんな、別れを惜しんでいる。
(C)2020 Laboratory X, Inc
山本先生は、患者さんたちに新しい先生を紹介し、その先生はあなたのことをすべてわかっているからと説明するが、彼らの不安は隠せない。診察が終わると、山本医師は患者さんたちに感謝を示し、安心させ、希望を持たせて患者さんたちを送り出した。
山本先生は、なぜ急に引退を決めたのか。山本先生の妻・芳子さんは認知症なのだ。先生が芳子さんの世話をしている。若いころ、山本先生の母親は、ここは自分の家だと言って芳子さんにプレッシャーをかけた。その家には、芳子さんの母親も一緒に暮らしていた。今までの長い結婚生活において、芳子さんはどのような思いで毎日を過ごしてきたのか。
(C)2020 Laboratory X, Inc
家庭を顧みず診察だけをしてきた先生は、今、芳子さんを包み込むように優しく接する。診察が終わるのを待ち、芳子さんの手を取って、診察所の奥にある家へと向かう。二人とも背を丸め、トボトボと歩く。応接間のソファーに芳子さんを座らせ、先生は台所に行ってお茶の準備。いただいた菓子の箱を開け、お茶とお菓子を持って応接間に行く。簡単なことだが、家を顧みなかった先生にとって、何がどこにあるのかもわからず、動作もぎこちなくうまくいかない。家の中は物が散乱している。しかし、そんなことはどうでもよい。先生が芳子さんを、大切に大切にしているのが分かる。そんな先生のすることを、芳子さんは微笑みながらだまって受けている。二人にとって、今が一番しあわせな時なのかもしれない。「先生、がんばって!」と声をかけたくなる。
新型コロナウイルスの影響で、映画館は休館していますが、新作映画を楽しみにしている観客、劇場、配給、製作者、みんなにとって何かよいことができないかと考えられたのが「仮設の映画館」です。全国各地の劇場が軒を連ねています。観客は、どの映画館で作品を鑑賞するのかを選び映画を鑑賞します。鑑賞料金は「本物の映画館」の興行収入と同じく、それぞれの劇場と配給会社、製作者に分配される仕組みになっています。新作「精神0」は、5月2日より、「仮設の映画館」にて全国一斉配信します。