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空に聞く

2020年11月

 空に聞く

  • 監督・撮影・編集:小森はるか
  • 出演:阿部裕美
  • 配給:東風

2018年 日本映画 73分

  • あいちトリエンナーレ2019〈映像プログラム〉
  • 山形国際ドキュメンタリー映画祭2019〈日本プログラム〉
  • 第12回恵比寿映像祭

プレハブの部屋の小さな机の上に、CDのデッキや放送発信のための機器が並んでいます。「陸前高田災害FM」のパーソナリティーの阿部裕美さんは、気象状況を調べ、CDの音量を調整する手をマイクに持ち替えて、今日の放送を始めました。

東日本大震災の後、被災地ではいくつかのFM放送が立ち上がり、被災地の人々に生活情報や心に寄り添う内容の発信をしてきました。阿部裕美さんは、2011年12月10日から、陸前高田市の市民に向けて語り始めました。映画「空に聞く」は、阿部裕美さんの番組取材の様子を追ったドキュメンタリーです。阿部さん自身も、和食のお店を開いていましたが、お店も実家も津波に流されてしまいました。自分の生活も整わない中、阿部さんは、パーソナリティーになりました。

何の経験もない当初は、間違えてはいけない、かんではいけないということが気になり、市役所から来る情報を知らせるだけで精一杯でした。そのうちに、自分の声ではなく、再開したお店の人に語ってもらうなど、住民の声をそのまま伝えることにしました。インタビューするときも、マイクを向けると緊張するので、テーブルの上に平たいマイクを置いて気にならないようにし、茶飲み話をしようと呼びかけました。

津波で流された農業日誌を大切そうに見せてくれる高齢の男性、お店を再開した人、かさ上げ工事が本格化する中で行われた七夕祭りなど、悲しみを抱えながら復興の歩みをしている人々の声を届けてきました。そのような放送の中、阿部さんが何よりも大切にしているのが、毎月11日14時46分に行う「黙祷放送」でした。
そして、2018年3月16日、最後の放送を迎えました。

 

被災後の様子を描く作品は、テレビ番組、映画などいろいろありますが、そこで一緒に生活している人の視点で発信しているFM放送の様子をとおして、被災地を身近に感じました。復興のための工事はうれしいでしょうけれど、以前の町は戻ってこない。身を守るためのかさ上げ工事は、あの美しい海の風景をなくしてしまう、そのようなことが地域の生活の中で、徐々に行われています。そんな地域、人々を、あたたかいまなざしで見つめている阿部さんの姿に、人々を見つめるやさしさ、人と人がふれあうことの大切さを感じました。阿部さんののやさしいまなざしは「陸前高田災害FM」を聞いていた人々に、音をとおして伝わったことでしょう。



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