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きこえなかったあの日

2021年 3月

 きこえなかったあの日

  • 監督・撮影・編集:今村彩子
  • 撮影協力:宍戸大裕
  • 整音:澤田弘基
  • 出演:加藤褜男、菊地藤吉・信子、岡崎佐枝子、身延山高等学校手話コミュニケーション部の皆さま
  • 配給: Studio AYA

2021年 日本映画 116分


今年は、東日本大震災から10年を迎えます。ボランティア活動なども一区切りするところもあり、震災は遠くなりつつあります。あのときの音のない世界で暮らしていた人々は、津波が押し寄せる中を、どのようにしていのちを救ったのでしょうか。10年が経った今、彼らはどのように暮らしているでしょうか。あのとき、音が聞こえない今村監督は、津波を知らせる警報が聞こえず、津波にのみ込まれていたかもしれないと言っています。震災の直後に避難所で取材した人々は、10年経った今、どのように暮らしているのでしょうか。ドキュメンタリー映画「きこえなかったあの日」は、耳の聞こえない人たちと災害を追った10年の記録です。

 きこえなかったあの日
(C) 2021 Studio AYA


東日本大震災での耳の聞こえない人々への支援を体験した手話通訳の人々は、その後、熊本地震、西日本豪雨、新型コロナウイルス感染症拡大と、次々と起きる災害の中で、「聞こえない人はいませんか、困っていませんか」と声をかけ支援してきました。また、耳の聞こえない人々が各地からボランティアとして災害地に集まり、耳の聞こえない人のお宅で支援活動をしています。

 きこえなかったあの日
(C) 2021 Studio AYA


昭和初期、手話が禁止され、口の動きで言葉を読む口話法が推進されていたので、高齢者の中には、日本語の理解もおぼつかず、手話ができない人もいます。この映画に登場する加藤褜男(かとう えなお)さんもその一人です。今村監督は、加藤さんとは手話が通じず、数字しかわからなかったと言っています。手話ができず、日本語の読み書きも難しい加藤さんが、仮設住宅での生活で孤立するのはないかと心配していましいたが、明るい加藤さんは、身ぶり手ぶりで積極的に人々の中に入っていき、不自由さを感じないほど住民の中で打ち解けていました。

その一方で、この期間、手話通訳者が地方公共団体の職員として働き、首長が記者会見などをするときに手話通訳として横に立つようになりました。テレビで放送されるときも、手話通訳者が画面に別枠で登場しているのを、ご覧になったことがあるでしょう。「手話は言語である」という認識が広まり、手話言語条例が最初に成立したのは鳥取県で2013年10月8日のことになります。手話の普及啓発、施策推進に努めるよう定められた手話言語条例は、その後、29府県に広がり、373の自治体で成立しました(2020年12月末現在)。学校でも、手話サークルなどが広まり、耳の聞こえない人々との会話がスムーズに行われています。

 きこえなかったあの日
(C) 2021 Studio AYA


 

映画の中で、まったく音が流れない数分が、たびたびありました。耳の聞こえない方々は、この無音が続く世界にいらっしゃるのだなと思うと、ドキドキします。

さまざまな災害から、ひとつのいのちも失われずに避難し、助けあって生きていくことができるよう、壁はできるだけ取り除いていきたいです。自分にできることは何なのか、また、人と生きていくとはどういことかを考える作品でした。



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