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シスター今道瑤子の聖書講座
聖パウロ女子修道会会員 シスター 今道瑤子
第4回 マタイ1章18~25節 イエス・キリストの誕生の次第 1
お告げの教会
この誕生物語は、誕生の歴史としてではなく、マタイによる福音書3章以下全体の内容の要点、つまり、イエスはいったいだれなのか、どこから来たのか、またどのようにイスラエルの救いの歴史の意味を 体現するかたなのかを 物語形式で要約するものです。
福音書の成立の歴史から見れば、この部分はマタイの福音書のなかで 最も新しい要素と言えましょう。
マタイよりも 早く書かれたマルコ福音書に この部分はありませんが、マタイと前後して世に出たルカ福音書には、マタイ同様イエスの誕生幼年物語が含まれています。けれどもいずれ見るとおり、マタイとルカの幼年物語は 互いにまったく異なる物語です。
ヨハネはイエスの誕生よりもさらにさかのぼって、原初に「言葉」が神と共にあったこと、その言葉は肉(人)となって わたしたちのあいだに幕屋を張った、すなわちわたしたちのあいだに 住んでくださったことについて語っています。これらのことについては、それぞれの福音書を取り扱うときに説明するつもりです。
まずテキストを 読んでみましょう。☆ 印をつけてある小見出しは 便宜上つけたもので、聖書本文ではありません。数字は、聖書の節を表します。
☆ 導入
(1)導入
18a:イエス・キリストの誕生の次第は次のようであった。
(2)マリアとヨセフの紹介
18b:母マリアはヨセフと婚約していたが、二人が一緒になる前に、聖霊によって身ごもっていることが明らかになった。
19:夫ヨセフは正しい人であったので、マリアのことを表ざたにするのを望まず、ひそかに縁を切ろうと決心した。
☆ 天使による誕生告知と名前の授与
(1)天使の登場
20:このように考えていると、主の天使が夢に現れて言った。
(2)誕生告知と名の授与
「ダビデの子ヨセフ、恐れず妻マリアを迎え入れなさい。マリアの胎の子は聖霊によって宿ったのである〔直訳すれば、“彼女のうちに産まれるものは聖なるからである”〕。
21:マリア(彼女)は男の子を産む。その子をイエスと名づけなさい。この子は自分の民を罪から救うからである。」
☆ できごとの背景
22:このすべてのことが起こったのは、主が預言者を通して言われていたことが実現するためであった。
23:「見よ、おとめが身ごもって男の子を産む。
その名はインマヌエルと呼ばれる。」
この名は「神は我々と共におられる」という意味である。
☆ 告知の実行
24:ヨセフは眠りから覚めると、主の天使が命じた通り、妻を迎え入れ、25:男の子が生まれるまでマリアと関係することはなかった。そして、その子をイエスと名づけた。
前回見た「系図」の原語は 18節の誕生の原語と 同じゲネシスというギリシア語です。日本語でも 一つの単語に意味合いの微妙に違うさまざまな含みがあるように、ギリシア語の単語を いつも同じ日本語に訳し変えるのは 不可能なのです。
ゲネシスは本来、起源を意味し、前回見たイエスの系図も 今回見ようとしているイエスの誕生もともに、イエスがどなたであり、どこから来られたのか、つまりイエスの起源を説明します。
この二つの問いは マタイが3章以下で、イエスの言葉と行い、その受難と復活の出来事を通して明らかにしていく 問いでもあるのです。
18 当時のイスラエルにおいて婚約は、結婚にいたる大切なステップで、単なる約束ではなく、二人の証人のもとで互いに 結婚の意志と同意を表すものでした。
わたしたちの社会での婚約よりも拘束力があり、この段階で法的には結婚したものとみなされていたようです。その後、一定期間、二人は同居せずに過ごし、やがて新郎が新婦を自分のもとに引き取るために その両親の家に迎えに出かけて連れ帰ることにより、結婚は成就しました。
18節での ヨセフとマリアの関係は、結婚にいたる第一段階にあり、同居するまえの状態でした。この時点で、ヨセフの知らないあいだに妊娠したというのは、神の掟に背くこと、不正なことと見えたのです。
ヨセフは正しい人でした。正しい人とは、神の律法に忠実に生きる人であると同時に、神があわれみ深いかたで、どんなに背かれてもゆるしてやまないかたであるように、自分がかかわるすべての人に寛容である人でしょう。ですから、マリアの不可解な妊娠の事実を前に、正しい人ヨセフの心は揺れ動いたにちがいありません。
神の律法に従って マリアを離縁することも正しさですが、苦しんでいるにちがいないマリアを はずかしめないことも正しさが求めることです。悩みぬいたヨセフは ひそかに彼女と縁を切ろうと決意しました。
20 夢は、この物語のなかの大切な要素ですが、次回に触れることにします。天使はこの出来事が聖霊によって起きたことを告げ、恐れずにマリアを迎え入れるようにと諭し、生まれてくる男の子に イエスと名づけるようにに命じます。