お薦めシネマ
沈黙の春を生きて
2011年 9月
Living the Silent Spring
- 企画・監督:坂田雅子
- 製作:山上徹二郎
- 編集:ジャン・ユンカーマン
- ナレーション:加藤登紀子
- 音楽:グエン・タイン・トゥン、難波正司
- キャスト:ヘザー・A・モリス・バウザー、シャロン・L・ペリー、
モナ・エドワーズ、シャリティー・キース=ライカード、
チュオン・ティ・キエウと母親のチュオン・ティ・トゥイ、
グエン・ヴァン・チュオイと母親のレー・ティ・ミット、
ド・ドク・ズエンとその家族、グエン・ホン・ロイ、
グエン・ヴァン・リエンと家族、チャン・ティ・ホアン、
グエン・タイン・トゥン、
ツーズー病院平和村の子どもたち - 配給:シグロ
2011年 日本映画 1時間27分
- 2011年度日本映画ペンクラブ賞 文化映画部門第1位受賞
化学物質は放射能と同じ様に不吉な物質で
世界のあり方、そして生命そのものを変えてしまいます
いまのうちに化学薬品を規制しなければ
大きな災害を引き起こすことになります
レイチェル・カーソン『沈黙の春』より
環境問題の教科書ともいうべき名著『沈黙の春』を書いたレイチェル・カーソンは、50年前に、殺虫剤などの合成化学物質が自然界と生命に甚大な害を与えると訴えていました。わたしたちの生活の中で問題にされるダイオキシンは、有毒で遺伝子にまで影響を与える恐ろしい化学物質です。ベトナム戦争のとき米軍は、ジャングルにひそむベトナム兵の所在をあきらかにするため、空中から殺虫剤を散布しました。その中にダイオキシンが含まれていたのです。当時米国は「人体には影響はない」とPRしていたのです。
戦争が終わった今、枯葉剤を浴びたベトナム兵やベトナムの人々、そして、その子どもたちに重い障害が出ています。ベトナムだけに留まらず、枯葉剤を散布した側の米兵にも、その被害は広まっていました。ベトナム帰還兵自身が健康障害に冒され、さらに彼らの子どもたちにも、障害を持った子がたくさん生まれたのです。
枯葉剤の被害にあっているベトナムの地を取材したドキュメンタリー「花はどこへ行った」(2007)を監督した坂田雅子さんは、4年を経て「沈黙の春を生きて」を製作しました。今回は、枯葉剤を散布したアメリカ側の声を取材しています。坂田さんは、アメリカ兵を父に持ち、障害を持って生まれたヘザー・バウザーさんと夫のアーロンさんの、ベトナム訪問に同行しました。
アメリカでは、今回の中心人物ヘザー・A・モリス・バウザーさんの他、ベトナム帰還兵の父をガンで亡くし、自身も大きな疾患を持っているシャリティー・キース=ライカードさん、ベトナム帰還兵の夫との間に生まれた先天的障害を持った娘を38歳で亡くしたモナ・エドワーズさん、ベトナム帰還兵の夫を亡くし、病気の2人の子どもを持つシャロン・L・ペリーさんを訪ねています。
(C) 2011 Masako Sakata / Siglo
ヘザー・バウザー夫婦が訪問するベトナムでは、「花はどこへいった」でも取材したチュオン・ティ・トゥイと母親のキウイさん、そしてグエン・ヴァン・チュオイさんと母親のレー・ティ・ミットさん。新しく、グエン・ヴァン・リエンさんと家族やツーズー病院の平和村の子どもたちなど、たくさんの人々と出会っています。
枯葉剤などの合成化学物資の恐ろしさを示しながら、戦争に枯葉剤を使用した米国の責任を問うとともに、重度の障害を持った子どもたちに深い愛情を持って見守る両親と兄弟姉妹たちや、周囲の人々との交流のやさしさと力強さを教えてくれます。
「両親が亡くなったら、わたしが弟の世話をします」と静かに、しかしはっきりと言い切ったチャン・ティ・ホアンさんのやさしい声と、音楽の指導者である全盲のグエン・タイン・トゥンが弾くベトナムの弦楽器の音哀愁をおびた音色が心に染みます。